その青は還る 完結
 曲作りが終わった頃に知人から連絡が入り、銀行で金を下ろしてから、指定された場所に向かった。人目につかないホテルの地下にあるBARで、知人は伸びた髪を丸メガネで留め、カウンター席で酒を飲んでいた。

 俺が席に座る前に、知人は茶封筒を静かに置いた。その代わりに、俺は封筒を差し出し、財布から多めに札を出して置いた。すると、知人が俺のほうを向いて、口を開いた。

「足、掬われるなよ」

「失礼だな、相変わらず。じゃあな」

 知人の嫌味は今に始まったことじゃないが、あの茶化し方がどうも苦手だ。俺も人のことを言えた口ではないが、知人よりはマシになろうと思った。

 そして、家に帰ってから、茶封筒を散らかったデスクの上に置き、ベッドに行って少し眠った。目を覚ましたあとはシャワーを浴び、髪を乾かして、着替えを済ませた。そろそろ頃合いかと踏んで、デスクに置いた煙草を口にし、火を点け、吐き出した。どうせ行くならと、PCに向かったときだった。

 デスクの上の五線譜が散らばり、その上に写真のようなものが落ちてきた。同時に煙草が落ちて、視線がそれを追っていた。咄嗟に手を伸ばしたが、時すでに遅く、五線譜の端が焦げていた。

見なければいいものを目にしてしまった。

景色の中に紛れて、その横顔がぼやけていた。

「……あっつ……」

手を伸ばしたとき、煙草の火が指先に触れた。

拒みきれない事実を、ようやく受け止めて、写真を茶封筒に戻した。

どこかで、もしかしてとは思っていた。だが、確かめるのが嫌だった。

彼も薄々気づいているのかもしれない。

それを理解したところで、俺が入り込む余地はない。

ただ、この事実を受け入れるには、時間が掛かりそうだった。

頼りない体で、車のキーを手にし、そのまま部屋を後にした。車に向かう間も、街へ向かう道中も、繁華街を歩いて店先が見えるまで、絶えず考えていた。

曲は出来ているから、聴かせれば彼は必ず納得する。しかし、一方の件は彼にとって、余計なことだと思った。

俺は一軒挟んだ道路脇で立ち止まり、煙草を口にして、吸いながら、店先を眺めていた。

すると、店先のそばで、何人かが揉めだした。それを見てるうちに、あの時の光景を重ねていた。

そこで俺は知人の言葉を思い出して、苦笑いを浮かべた。
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