人は見た目に騙される

雨宮桜都と神白秀人


 全てが終わり、夏菜を先に家まで送り届けたあと、静かな部屋に二人だけが残った。

 「怖かったか?」
 「いいえ」
 「そうか」

 少し間を置いて、秀人は桜都を見る。

 「ならよかった」
 「……ありがとうございます」
 「お前が俺に礼を言うのは珍しいな」
 「借りは作りたくないので」
 「俺には返さなくていい」
 「それはできません」
 「なぜ?」
 「私は借りたものは返す主義です」

 秀人は静かに桜都を見る。

 「金の話じゃない」
 「……分かっています」

 しばらく沈黙が続いた。やがて秀人が言った。

 「昔のことまで借りにするつもりか?」

 桜都の視線が僅かに動いた。

 「昔のことだからです」
 「だから?」
 「いつか返さなければと思っています」

 秀人は小さく息を吐いた。

 「……まだ言ってるのか」
 「はい」
 「お前は変わらないな」
 「あなたもです」
 「俺が?」
 「何も受け取らない」

 秀人は桜都を見た。

 「俺はあの時のお前に何かを求めたか?」

 桜都は答えない。

 「金も」
 「……」
 「礼も」
 「……」
 「見返りも」

 桜都はゆっくりと目を伏せた。
 その沈黙だけで、二人の間に何かがあったことが分かる。
 けれど、その内容はまだ誰にも分からない。
 秀人は静かに言った。

 「だったら今さら返そうとするな」
 「でも――」
 「桜都」

 名前を呼ばれる。それだけで桜都は口を閉じた。

 「俺が欲しいのは昔の借りを返してもらうことじゃない」
 「……」
 「今のお前がここにいることだ」

 真剣な声に桜都は何も言わなかった。
 言えなかった。





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