鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】

プロローグ


 ザザーッという音が全身を包む。
 背中まである髪を晩秋の潮風に散らされながら、波打ち際まで行く。

 あの人は、今どうしているかしら……。

 確固たる信念を持ち、アメリカへ留学に出た人だ。私の想像など遥か及ばないほどの努力をしているに決まっている。

 根を詰めすぎて無理をしていませんように……。

 水平線に向かって声に出さずに祈るのは。この一年ですっかり日課として定着していた。

 波の音を聞いていると、彼とふたりでこの浜を歩いたのが昨日のことのように脳裏によみがえる。あの日の出来事は私にとっては特別なもので、いつまでも胸の中に星のように輝いている。
 きっとあの人にとっては、思い出したくもない嫌な過去になってしまっただろう。

 当然の報いよね……どんな理由があっても、嘘をついて彼をだましたのは事実だもの。

 苦い思いが広がり、胸が締めつけられるように痛んだ。

『紗雪(さゆき)』

 波の音に紛れて彼の声が聞こえた気がして振りかえる。背の高い彼の姿はどこにもない。胸がギュッと締めつけられた。

「ばかね……」

 いるはずがないとわかっているくせに、彼の姿がなくて悲しくなる。もう何度も同じことをくり返している自分の愚かさに涙がにじんだ。

「ふぇっ……ふぇぇっ」

 腕の中から聞こえた小さな泣き声にハッとした。三ヶ月前に生まれたばかりの息子は首が座ったばかり。母親の私がしっかりしないでどうするのと、自分を奮い立たせる。

 過去を振り返るのはもう終わりにしよう。私には前を向いて生きていくべき理由がある。

「この子は私が守らなきゃ……」

 まぶたににじんだ涙を潮風で乾かし、私は海に背を向けた。
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