鉄仮面救急医は、再会した身代わりママを猛愛包囲で逃がさない【秘密の溺愛シリーズ】
第一章 身代わりのお見合い
「院長室に書類を持っていってきます」
経理室にいるスタッフに声をかけ、私、羽野紗雪は席を立った。
非常階段を使って三階まで上がり、廊下の奥にある院長室を目指す。
ふと窓の外を見ると、街路樹のイチョウが半分ほど黄葉している。もう十一月も半ばだ。来月は決算で忙しくなるため、今のうちに処理しておく書類を院長室に持っていかなければならない。
伯父が院長を務めるこの『羽野医院』に就職してから三年半が経ち、経理業務はひと通りこなせるようになった。白ブラウスに紺色のベストとタイトスカートという〝ザ事務員〟な制服もすっかりなじんでいる。
窓口業務を担当する医事課のスタッフ達はよく『古臭くて嫌だ』とぼやいているけれど、私はあまり気にならない。事務経理の私は表に出る機会はほぼないし、百五十八センチでやせ型の体形に、おしゃれな制服が似合うとも思えない。
顔立ちだって平凡だ。垂れ気味の丸い目、ちいさな鼻と唇。それらがコンパクトな感じで卵型の輪郭に並んでいるだけ。二重まぶたに囲まれた瞳は、日本人にしては茶色味が強い。元々色素が薄いのだろう。肩甲骨まであるふわっとした髪も、光の具合では茶色っぽく見える。悪目立ちしたくないので、いつも頭の下の方でひとくくりにしている。
【院長室】と書かれたプレートのついた重厚な木製のドアを、コンコンと二度ノックする。中から「はい」と低い声がした。