甘いヒーローの独り占め

11話

「いい。袋お願いします」

「でも…!」

「…俺が食べて飲む」


視線だけが桜子を見ていた智也は、財布からカードを取り出して会計を済ませた。
大きめの袋を持って、道路側を歩く智也は、走っていたタクシーへ手を挙げる。


「え…近くなんじゃ…?」

「まだ少し歩くし、桜子に時間をもらってるから」


タクシーのドアが開くと、桜子は何といえない表情になりつつ、乗り込んだ。
智也も乗り込むと、乗車場所の名前を運転手に伝えて、二人はシートベルトを締めた。

車の窓から見える景色を眺めていた桜子は、智也の方を見た。


「あの…智くん、タクシー代は出したい」

「…だめ」

「なんで!?」


思ってもいなかった返答だったのか、驚いた顔になる桜子を見て、智也はフッと笑った。


「なんでだと思う?」


信号で止まると、外の車のライトが智也を後ろから照らし、一瞬だけ表情が見えなくなる。
鼓動が高鳴る音が聞こえた気がした桜子は、顔を下に向けて小さく答えた。


「わ…わかんない…」

「…今はそれでいい」


桜子の言葉に答える智也は、青信号に変わって動き出したタクシーから、外を眺めた。
横目で見ていた桜子も、反対の窓から外を眺める。





少し走ったタクシーは、高層マンション群の中に入り、出入り口で止まった。


(え……?ここ…?ホ、ホテル…!?)


智也の方のドアが開くと、支払いを済ませた智也が先に降りた。
運転手へお礼を伝える桜子も続いて降りると、真上を見上げるほどの高いマンションに、言葉をなくす。


「桜子?」

「…と、と、智くん…?ここって…」

「俺の家。8階だけど」


桜子を連れた智也がマンションの出入り口から入り、オートロック操作盤で部屋番号を打ち込んだ。
< 11 / 22 >

この作品をシェア

pagetop