姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 あの日、睦美はわざわざ大勢がいるところで待機しながら、スマホが鳴るのを今か、今かと待っていた。
 シナリオは完璧だった。
 大学にはまだ“麦のことを知らない”生徒がいる。これまでのように麦は全員から嫌われ、蔑まれなければならない。だから須賀が連絡を入れてくれば、皆の前で泣きながら“事情”を説明できたのだ。
 それなのに須賀は、簡単に睦美をあきらめた。
 
 ……麦の顔を見て、絆されたの?
 そう思うだけで、勝手に髪を切ってきた麦に腸が煮えくり返る思いだった。
 
 別に須賀を切りたかったわけではない。
 外見も性格も悪くはなかったし、家も裕福で、睦美を喜ばせようとプレゼントを惜しまなかった。弁護士志望で頭も良いようだった。キープしておくべき男だった。――だが、それらすべてを上回る碧が現れた。だから切ったのだ。


 ……別にいいわ、私にはアオくんがいる
 睦美は不快な記憶を消すように頭を振った。

 碧さえ手に入れば、すべてが思い通りだ。
 麦を壊せるし、自分のステイタスも上がる。
 
 それに――
 睦美は焦がれるような胸にそっと手を置いた。
  
 ゲームのように始めた碧との関係だったが、なかなか恋を始めてくれない碧にいつのまにか自分の方が本気になってしまった。
 育ちの良さが表情や口調に滲み出ている碧は、基本とても優しい。だがその優しさに溺れさせてはくれない。
 時々見せる突き放すような視線――けれど髪や首筋に触れてくる手にためらいはなかった――うっとりすると、無言のまま見下ろされる――それと同じ数の、蜂蜜のような笑顔――そしてまた唐突になげやりになるのだ。もどかしくて、どうにかなってしまいそうだった。 
 碧はまだ、自分に本気になってない……
 そう分かるからこそ、碧を完全に手に入れたかった。
 
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