姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 碧のアパートに初めて行った日、自分の“失敗”で恋人になれなかった。
 白けさせてしまったのか、あれ以降碧から求められることはなくなった。

 一度、睦美は自分からキスをした。
 キスは上手な方だ。体にだって自信はある。
 けれど碧は、困ったように言ったのだ。

「俺は、追いかけられるより追いたいかな」
 碧の言葉が耳の奥にずっと張り付いて消えなかった。

 それからは、楽しみにしていたデートや旅行をドタキャンされても、拗ねたり怒ったりできなくなった。
 感情的になれば、碧は簡単に『終わり』を口にするはずだから。
 


 睦美は手の中のスマホをみつめた。
 ……アオくん、お願い、今、連絡してきて
 

 どのくらい執念にも似た『願い』を送り続けていただろうか、
 広いダイニングテーブルでひとりで夕ご飯を食べながら、お風呂に浸かりながら、何度もスマホをチェックした。
 そうしてベッドに入った時、碧からメールが入った。

 
碧:今度の金曜日空いてる?
大切な話があるんだ。
記念日になるような店を予約したよ。
来てくれる?

 睦美はベッドから飛び起きた。
 心臓が、ドクドクドク、と波打った。

 ……いよいよ、アオくんが私に落ちた

 ああ。
 睦美は両手で顔を覆った。笑みがこぼれ、胸がいっぱいになった。




【第三章終わり】
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