姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「誰に断って服買ったの? 髪を勝手に切ったことも許したから調子に乗った?」
「……そういうわけじゃ」
「だったらなんなの、これ」
睦美はネイルの爪で私のニットのシャツを皮膚ごと鷲掴みにした。
「あっ」
突き飛ばされ、私はその場に倒れこむ。
睦美が私の前にしゃがんだ。
「もしかしてアオくんの気を引こうとしてんの? アオくんはもう私の男だから」
「で、でも、ずっと前から私の――」
バチン、と頬に平手打ちを受けた。
……痛いっ
心の中で叫んだ。
「……」
あの夜は我を忘れた衝動だったようだが、今日の暴力には完全な意思があった。
私は、じいん、と熱を持った頬を手のひらで抑えた。
……いい絵が撮れたかもしれないけど、せっかく、おしゃれしてきたのにな、
そのことを残念に思う冷静さに、――大丈夫、私は負けてない、と勇気が出た。
「麦ちゃん」
しゃがんだまま、至近距離で睦美が私の名前を呼んだ。
「わかってるよね」
「……」
睦美がよく口にする『わかってるよね』には、私を雁字搦めにするに効果的な響きがあった。
――私が麦ちゃんに“当たる”のは、麦ちゃんのせいだからしょうがないよね
――こんなことしたいわけじゃないんだよ
私の罪悪感が薄れないように、睦美は定期的に私に『言い聞かせる』。
「麦ちゃん、痛いでしょう? 痛いのは、嫌でしょう?」
「……」
「もうこんなことさせないで? 麦ちゃんがわかってくれないと、わかってもらうまでこうするしかないよ?」
不気味なほどの、撫でるような声。
「……」
ここから先の制裁には、暴力が加わると宣言しているのだ。――だからいつものように――いや、それ以上に服従しろ、と。
私はぐっと顔を上げた。