姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「……う、うん」
「睦美ちゃんの病気も治って、今度は一緒に暮らせることになったの。麦、今まで会えなかった分、お姉ちゃんと仲良くしてね」
「……う、うん」
なぜ今まで隠されてきたのか、なぜ今まで会えなかったのか、聞きたいことはたくさんあった。けれど言葉を呑み込んだ。衝撃が強すぎたせいもあるが、両親からただならぬ緊張が伝わってきたのだ。突っ込んではいけない――そう思わせる空気があった。
夏休みに入ってすぐ睦美と対面した。
鏡を覗き込んだような自分そっくりの顔が不思議で、くすぐったい気持ちになった。
「はじめまして、むつみお姉ちゃん! 私は麦だよ!」
両親に言われていた通り、率先して睦美に近づいた。
だが警戒心をまとった睦美はなかなか笑ってくれなかった。
「……」
黙ったままの睦美に不安になり、私は両親を見上げた。
「……やっと四人家族になれて良かった」
「……心配はいらないよ」
両親も、言葉と表情が噛み合っていなかった。
「――麦、睦美お姉ちゃんと遊んでらっしゃい」
「――麦がいろいろ教えてあげて」
「――睦美お姉ちゃんも連れて行くのよ」
両親から日に何度も睦美を託され、私の生活は睦美中心になっていった。
私はひっきりなしに話しかけた。けれど睦美は閉じた口元で静かに笑うばかりだった。
睦美と早く仲良くなりたくて、家族のこと学校のこと友達のこと、近所のこと、私自身のこと――、大切なことから些細なことまで目についたもの思いついたものを言葉にし続けた。
そんな日々が続き、夏休みも残り数日となったあの日――
私たちは丘の上の広場で遊んでいた。
「あの……、あぶないから、下りた方が」
「むつみちゃんもおいでよ。足、ひっかけるところあるでしょ」
私は登った木の上から手を振った。
ようやく口をきいてくれるようになっても、睦美は変わらず思いつめたような遠慮するような、神経質な表情を向けていた。
「そんなに高くないよ。遠くまで見えてきもちいいよ!」
睦美に早く打ち解けてほしい、その一心だった。私は睦美に手を差し出した。
「ここにすわれるよ。太い木だからだいじょうぶ! さあ」
麗とよく並んで座った特別な場所を睦美に教えてあげるのだと、なぜなら君は私のお姉ちゃんだから――、そんな風に、私は私の世界を、私の手の中にある大切なものを残らず睦美にひらいて与え続けた。
「あっ!」
躊躇する睦美に必死に手を伸ばしたせいかバランスを崩した。
一瞬の出来事だった。落ちる――っ!
思わず目をつぶった。地面に叩きつけられた音が先か、痛みがきたのが先か、とにかくこれまでに経験したことのない衝撃が体を襲った。