姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「むーちゃん……、あのさ、ごめんね?」
なんのために謝るのか分からないだろうに、碧は私の機嫌を取ろうとしていた。
その行動に、なんだか救われた。
私たちの間には会えなかった月日が存在している。
そのどうしようもないことこそが、現実だ。
「むーちゃん、かなり痛む?」
雰囲気を変えようと、目の前の料理を口に入れたら、あまりにしみて顔を歪めてしまった。
すぐに気遣ってくれる碧に、さっきまでのモヤモヤが薄れていく。
「口の中切れてたみたい。でも大丈夫! 美味しい!」
……アオくんが目の前にいるから、もうなんでもいいか!
あのまま――睦美に碧を奪われることを思ったら、過去に嫉妬するなんて贅沢なことだ。
叩かれていない方の歯で咀嚼していると、碧は切なそうに言った。
「俺が代わってあげたい……」
私は人差し指を上に向けて諭すように言う。
「そしたらアオくんが痛くなっちゃうよ?」
「そっちの方がいいよ」
「私が嫌だよ」
私たちの上に甘い空気が降っている。
それを私も――たぶん碧も、感じ取っている。
今日は大変な一日だったけど、何もかも終わったらこんなご褒美が待っていた――正直、ここまでは想像していなかった。
碧が私のために一緒に復讐計画を練ってくれていたことも衝撃だったけれど、碧があんなにも容赦なく、睦美を断罪してくれたことも本当に、嬉しかった。
「アオくん、ほんとうに――ありがとう」
心を込めて言いたくなった。
「どういたしまして」
碧はシンプルに、言った。
だけどもその眼差しの深さは、言葉とは裏腹だった。
……ねえ、アオくん。もしかして、アオくんが好きなのは、私?
――友達としてでは、なくて。
そんなことを思ってしまいたくなるくらい、碧は向き合う私に目を細めて笑っていた。