姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


 次の日、午前中の早い時間に引っ越し屋のトラックがやってきた。
 業者が荷造りをすべてやってくれるパックらしく、手伝うことはなにもなかった。
 睦美はずっと不貞腐れたように黙っていた。
 だから私も、黙っていた。

「これがアパートの住所だ」
 睦美の持ち物のすべてが家の中から消えると、父が一枚の紙と鍵を睦美に渡した。
「……」
 睦美は父の、動き出しそうで動かない唇を見ていた。

「ねえ」
 私は代わりに話しかけた。
 睦美がぎろり、と私を見た。
 もう両親の前でも私への悪態を隠さないことにしたようだ。
 睦美の目の前まで行って、手のひらを上に向けた。
「アオくんとれいちゃんからの手紙、返して」
 証拠はない。
 けれど断定してぶつけた。
 睦美は一瞬狼狽えたが、すぐに太々しい態度に戻り、頬を歪めて笑った。
「そんなのとっくに捨てたわ」
 ……。
 ああ、やっぱり犯人は睦美だったんだ。
 私の大切な思い出を、友情を、初恋を、奪ったのは。

「そう」
 私は短く言うにとどめた。
 睦美が小さく唇を動かした。
「――あんたが幸せになる世界がこないよう、もっと壊しておくんだった」
「……」
 その呪いのような声は、辛うじて私の耳にだけ届いた。
 睦美の唇が再び動き始めたが、私は声を高くした。
「じゃあね。見送らないけど」
 私はさっぱりと明るく言って、睦美に背中を向けた。
 ……もうあなたの言葉はなにひとつ聞いてやらない
 
 私はきっと睦美を許さないだろう。

 もしもそのことを誰かに咎められたら――
 たくさん幸せになってから考える、と答えるだろう。  
 

 私の目の端で、睦美が自分のバッグを乱暴に掴んで、近くにあるダイニングテーブルに叩きつけた。
 そのままずかずかと音を立てて玄関の方へ歩いていく。
 父にも母にも、もちろん私にも“最後の挨拶”はなかった。

「あの子……、最後まで麦に謝らないで」
 母が尖った声を床に落とした。
「……」
 父も難しい顔をしている。
 私は、そっと吐息を漏らす。
 自分たちだって、今まで育ててくれてありがとう、と言われてないじゃん…… 

「――そうだ! パパ、ママ、うどん食べたくない?」
 私は日常を提示する。 
 ここからは一秒だって操られるものか。
 
「琴乃のうどん、めっちゃ美味しいんだ!」

「――そうか、じゃあ、行こうか」
「行きましょう!」
 
 私はふたりの腕を取った。
 もう後悔に暮れたりしない。
 私たちが幸せになること。
 それが、私の復讐だ。  

 
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