姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

私は、悪くない(睦美)


  +  +

 ……なんで私がこんな目に。
 
 睦美はアパートへ帰ってすぐ、手に持っていたバッグを床に叩きつけた。
 ワンルームの狭い玄関には、靴箱に入りきらなかった靴が溢れている。それらを避けながら、睦美は片付いていない部屋に足を向けた。
 
 先週まで、自分が世界の中心にいる感覚があった。
 それが突然反転してしまった。
 透明人間のように扱われたのは生まれて初めてだった。

 ……私が、なにしたっていうのよ。
 惨めさと悔しさが拮抗していた。



 友人たちに無視されたまま授業が始まり、教室が静けさに包まれる中、睦美は必死に考えた。
 けれど遡っても、こんなことをされるほどの原因が思いつかない。
 それに仲間の誰かの怒りを買ったのだとしても、全員が“そっち”に付くなどありえない。――ありえないほどの理由を、誰かが作った?


 頭の中が散らかったまま、授業が終わった。
 と同時に、友人たちが一斉に立ち上がった。

 ……。
 睦美は動けなかった。
 ようやく顔を上げた時には、自分の周囲にだけ誰もいなかった。そう、誰も……。
  
「……っ」
 睦美は屈辱の中、立ち上がった。
 そうして荷物を持ち、逃げるように教室を出た。


  *

 睦美はベッドの端に座って、頭を振った。
 じっとしていると自分に積もってくる、息苦しい気配を払うように。


 そういえば、と睦美は痺れるような思考の中で立ち止まった。

 この週末、親しい友人たちからはメールが入らなかった。
< 126 / 134 >

この作品をシェア

pagetop