姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 スマホから手を離し、ドアの前まで行った。
 インターフォンがないため、ドアに声を向ける。

「はい」
 家族以外は睦美がアパートに引っ越したことを知らない。
 ということは、家族の誰か――

「睦美」
 その声は、父だった。
 睦美はドアの鍵を開けて父を向かい入れた。

「……」
 だが向き合うと、怒りが込み上げてきた。
 ……ここまでうまくやってきたのに。
 自分の居場所を作って、守って、自分の力で生きてきた。
 そのプロセスで誰かを傷つけたかもしれないけれど、そんなことは誰でもやっていることだ。


「――これを」 
 父から玄関で、分厚い封筒を渡された。
「……」
 睦美はすぐに封筒を開けた。
 中には、家賃や水道光熱費の書類や契約書と通帳が入っていた。

「毎月一日に振り込むから、これで生活しなさい。家賃も水道光熱費もここから引かれるから無駄遣いはしないように」
 通帳を開いた。十五万入っていた。
 睦美が不服そうにしていると、父は念を押すように言った。
「足りない分は自分でなんとかしなさい」
 睦美は、父を睨みつけた。
 勝手に追い出しておいて、命令までされていることに苛立った。
 どうして自分がこんな目に遭っているか、納得できなかった。

「――なにか、言うことはないのか?」
 責めるような父の声に反感が湧く。
 睦美はわざと反抗的に顎を上げた。
 ……少しやりすぎたかもしれないが、最初に裏切ったのは麦だ。
 ……私はなにひとつ悪くない。


「君を引き取ると決めたことは、間違いだった」
 父は暗い影を背負っていた。
「なぜこんなことを言うか、分かるね」
 睦美は頷かなかった。

「君が、麦を苦しめ続けたんだ。私たちの大切な娘を」
「……」
「そんなことしなければ私も李加も、そして麦も、君を家族だと思っただろう」 
「アナウンススクールのお金は?」
 睦美は父のすべての言葉を無視して、用件だけ聞いた。
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