姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
  
 睦美は、祖父母から『生まれてこなければよかったのに』と言われながら育った。
 幼い睦美には言葉の意味が理解できないと思っていたのか、世話をしながらふたりは日常的に嘆いていた。
 
 ある日、祖父母から「もう一緒に暮らすことはできない」と告げられた。

「どうして? むつみがこのまえ、うそついたから?」
 その数日前、水族館へ行った。
 “学校の宿題”だと嘘をついて祖父母を連れ出した。睦美にとっては楽しい一日だったが、高齢の祖父母は帰宅後、疲労から寝込んでしまった。
「ごめんなさい」
 嘘ぐらい今まで許してくれていたのに……と残念に思いながら謝った。

「睦美は、これから家族と暮らすんだよ」
 祖父母の表情はいつになくすっきりして見えた。
「睦美にはお父さんとお母さんと、双子の妹がいるんだよ」
「……」
 両親は『病気で死んだ』と聞かされていた。それが突然、親は生きていて、双子の妹まで存在している? 祖父母こそ嘘つきじゃないか、と思った。
「おばあちゃんたちはね、この家を売って老人ホームに入ることにしたんだよ」
「じゃあ、むつみもいく!」
「睦美、新しい家ではこんな風に我儘にしてはだめだよ」
 ひどく神経質な声に咎められた。
「おとなしく良い子にしていたら追い出されないからね」
「むつみ、ここがいい!」
 睦美が何を言っても、祖父母の決意が変わることはなかった。

 
 “新しい家族”との生活は、夏休みと共に始まった。
 
 両親のどちらかは……本当の親ではないだろうことは、会う前から察しがついていた。
 そもそも母として聞かされていた名は実李。なのに今度の母の名は李加だ。それに『双子の妹』とは『届け出を間違えたから誕生日が違う』なんて、言い訳としてもおかしい。
 ……それでも睦美はすべての疑心を呑み込んだ。
 おそらく祖父母も、心の奥底では睦美が騙されていないことを知っている。だが押し切ってしまいたい――という切迫した気持ちが、睦美を黙らせていた。
 
 新しい母は、数少ない写真の中の母にそっくりだった。
 時々祖父母たちの会話に出てきた『あんな子』に違いない、と思った。

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