姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


 本当は気になって仕方がなかった。
 私ではなく睦美と会った碧は、この後どうするつもりなのか。睦美のことを、好きになってしまったのだろうか。もう私と会う気持ちがなくなってしまったのか。
「まだだね」
「……そっか」
「アルバイトで忙しいのかな」
「あ、動物病院だっけ」
「うん。時間が空いたら真っ先にむーちゃんに会いに行くんじゃないかな」
 麗はニヒニヒ、という感じで笑った。
「……そっか」
 もう会いに来たんだよ……そして、私と睦美(姉)を間違えたんだよ。
 言葉は、喉元にも届かなかった。
「とりあえずアオくんにメールしてみよっか」
 言いながら麗はスマホに指先を乗せる。
「返信来たら教えるね」
「う、うん」

 そんなやりとりから一週間が経った。
 麗から碧の話題は出なかった。

 ……なぜ?
 疑問が沸いても、――怖くて、その理由を麗に尋ねられなかった。

    *

 ふふ~ん、ふんふん、ふ~ん
 ここのところ上機嫌な睦美は、鼻歌交じりでキッチンに立っていた。
「麦ちゃん、おかえり。夕ご飯食べた?」
 優しく明るい口調が向かってくる。 
「今日はね、私がエビフライとアップルパイを作ったよ。良かったら食べてね」
「……いい。店でまかない出たから」
 私は小声でぼそぼそと答える。
「少しぐらい食べられるでしょう?」
 母が咎めるように口を挟んだ。
「……」
 私を見る母の目は常に暗い色だ。"もうひとりの娘"は依怙地で扱いにくく、何を考えているのか分からない――そんな心の中が、溜息を漏らす口元に溢れている。
「麦ちゃん、私ね、明日ピクニックデートなの! それでお弁当を作ってるんだ。よかったら味見して感想聞かせてくれない?」
「……」
 誰と――、など聞かなくても分かる。
 睦美はあれから碧と会っている。
 睦美に頼まれたアナウンススクールの資料を部屋へ届けたとき、置きっぱなしのスマホにメールが入ってきた。そこに『アオくん』と表示されていた。

「……忙しいから」
 私は素っ気なく答えて、階段を上がった。
 睦美が指定した通りの『陰鬱な麦』でいるために。


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