姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「ねえ、お姉さんに会わせてよ。私がガツンと言ってやる!」
「だ、だめだよ」
「なんで」
「……」
麗は知らない。睦美と向き合った人が皆、睦美の味方になってしまうことを。
人一倍正義感の強い同級生でさえそうだった。
睦美に「双子なんだからもっと気遣ってあげなよ」と言ってくれた人……。けれど結局、睦美が言い難そうに、苦悩を滲ませてぽつぽつと告白した嘘の内容を信じた。
それからは、誰かが私に優しくするたびに睦美はさらにひどい嘘を重ねるようになった。結果、私は前よりもっと嫌われることになった。
「れいちゃん、私はさ、自分勝手だと思われてもれいちゃんを失いたくないんだ」
睦美の表情や言葉には、なぜだか人を説得する力がある。それを一番知っているのは、私だ。
「だから会ってほしくない」
泣き笑いになった。
「わかったよ、むーちゃんが嫌なことはしないよ」
麗もまた泣き出した。
「むーちゃん、親に相談しよう」
「でも」
「“死ぬ”なんて嘘だと思う」
麗の手が私の拳を包んでいる。その温かさと強さが、沁みた。
「……傷痕を少しでも薄くできればと思って、いろいろ調べたの」
「美容整形みたいなこと? そういうのは何百万もかかるよ? それをひとりで稼ぐなんてあと何十年かかるかわかんないよ」
「……そうだけど、それしか方法がないよ」
「そんなことない! むーちゃんがすることは親にすべて話すこと。これはもう子供が責任を取れる範囲じゃないよ」
「!」
第三者がこの状況を“正しくない”と言ってくれた。その瞬間、私の中の“何か”が動き出した感覚があった。
私は震え出した指先を握って、懇願するように聞いた。
「聞いてくれると思う?」
勇気を出す、その勇気が欲しかった。
「子供の話を聞かない親なんて、親じゃないと思う」
「私のことは見限ってるんだよ……」
「それも含めて全部話すの! 今までの態度はお姉さんに言われて、仕方なくそうしてたんだって!」
「信じてくれなかったらどうしよう」
勤務医の父は多忙で、家にはあまりいたことがない。平日の午前は一般診療、午後は手術、休みの日でも術後の患者をケアしに出勤する。家にいる時間帯が合わず、一週間以上顔を見ないことも珍しくはなかった。
父と同じ病院に勤務していた看護師の母は、家事や育児と両立するために夜勤のないクリニックへ移ったが、家では睦美とばかり話している。睦美は学校のことや勉強のこと、友達のこと、好きな男の子のこと、なんでも母に話している。ふたりは、私が思い描く『理想の母娘』だった。
「もしも信じてくれなかったら、むーちゃん、そんな家から出なよ」
「えっ?」
考えたことのない提案にたじろぎ、ああ、そういう選択肢もあるんだ、と気づいた。
「うちに来ればいいよ。うちの実家じゃ気を遣うっていうなら私、ひとり暮らしする! 一緒に暮らそう!」
「れいちゃん……」
「だからなんにも心配はいらないってこと!」
背中を押してくれる麗のおかげでようやく勇気が湧いてきて、私は何度も、大きく頷いた。