姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
麦を否定されるのかと身構えていただろう麗の声が、だんだんと探るような声色になってきた。
「ねえ、その子の髪の長さは?」
「胸の下ぐらい」
「ネイルとかしてた?」
「してた。桜かなんかの絵が描いてあった」
『むーちゃん』を脳裏に呼ぶ。――桜色の爪で顔にかかった長い髪をなぞり、ジュースのストローをもてあそんでいた。
「むーちゃんがウィッグ付けて着替えてネイルしてとか現実的じゃないし、別人だと思う」
「……やっぱりな」
皮膚の下が冷える感覚があった。
「むーちゃんに姉妹がいたなんて聞いたことないけど」
「俺も知らなかった」
麗の声は不満気だった。秘密にされていたとしたら感情的には割り切れない。
「――だとしてもさ、それでもへんだよ」
「だよな」
麗の言葉に碧も同意する。
「どんな理由があっても、むーちゃんのふりをする必要はないよ」
「しかも俺を“落とそう”としてた」
「ええ?」
「なんか気味悪い」
「そりゃそうだ……。で? “そっち”のむーちゃんとこれからも会うの?」
「そうしようかと思ってる。何の目的があってむーちゃんのふりをしてるのか確かめないと」
「私もむーちゃんにさりげなく『家族の話』振ってみる」
麦の家族の問題を探っているようでうしろめたさはあるが、『むーちゃん』の“仕掛けてくる感じ”に嫌な予感がした。
「お互い情報を共有していこう……」
碧は『むーちゃん』とのやりとりを、麗は麦の様子や会話の中身を、それぞれ報告し合うことにした。