姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
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スマホが一日に何度も『MOO』からのメッセージを受信する。
「……」
碧は冷めた視線のまま『むーちゃん』に返信する。決して冷たくならないように、優しすぎないように。恋人になる一歩手前の曖昧な関係性を意識させて焦らすのだ。
――「アオくんってホストみたいだね。って、ホストと喋ったことないけどさ、イメージイメージ」
昔と変わらず遠慮も裏表もない口調で麗に言われたことがある。
「鋭いね。ホストじゃないけど似たようなバイトしたことあるからね」
「それは聞いてないよ!」
「あー、そっか」
『まだ言ってないし』
口元に指を当てて心の中だけで言った。
いつか麦と麗と三人が揃ったら、これまで自分がどう過ごしてきたのか、落胆されるとしても正直に話すつもりでいる。
「なにが“そっか”だよ。無駄にかっこつけやがって」
「は、そんなつもりはないんだけど」
なにげない仕草や口調を時々麗にからかわれた。ここに麦が加わったなら賑やかな笑いが起きるだろうと想像する。
早くその日を迎えたいと、碧は待ちきれない気持ちになる。
バイトに限らず、話してないことはまだまだある。
アメリカで暮らしていた――というのも半分は正しくない。
資産家である母親の両親の援助で渡米し、数回に分けて手術を受けたが、継続する治療は母の兄弟家族からの反発でできなくなった。親の財産を大量に食い潰す甥には同情するも限度がある、ということだった。
――碧のために十分なことをしてもらったからいいのよ
母はそう言ってくれたが、兄弟との関係が悪くなり、気軽に実家へ寄ることすらままならなくなった母には申し訳なさしかなかった。
残っていた治療は日本に戻って、父の故郷の北海道で行うことになった。
入退院を繰り返しながら、牧場に再就職した父を手伝い通信制の学校に通った。
高校を卒業するまで友達は作れなかった。だから余計に麦や麗と過ごした時間が忘れられなかった。
返事をくれない麦が心配だったし不満にも思った。ただ、麦の毎日が充実しているならいいと、寂しさの代わりに納得しようと努めた。それに――まだ“大人になっていない”。
麦が忘れてしまっても、『大人になったら会おう』という約束が自分たちを繋いでいる。社会に出るまで、麦に選ばれる人間になると決めていた。
……だが、
碧は過去の自分の選択を今は激しく悔いていた。勝手に決めつけて、自分自身に集中している場合じゃなかったのだ。