姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
*
「――――アオくんっ、今、足音聞こえたッ」
引き攣れた声と共に、身を屈めて裸の上半身を隠した『むーちゃん』にしれっと言う。
「ああ、友達かな。きみが来たから出て行ったんだと思うけど」
『むーちゃん』が窺うような目を向ける。
完全には信じていないが、追及して自分が損をしないか計算しているようだ――と、その表情から読み取る。
「……」
「……」
『むーちゃん』は自分がいかにモテるか、男たちから大切にされる特別な存在かを遠回しに伝えてきた。『そんな女の子にあなたは今、好意を持たれているの、誇らしく思って』――言葉の裏に傲慢な感情を垂れ流しながら。
「なんか、しらけちゃったな」
碧は両手を背中に回した。
「今日はやめようか」
「……え?」
時間差で、みるみる『むーちゃん』の顔が赤くなる。屈辱がその口元に広がりヒクついている。自分の裸を前にして男が我慢できるはずがないのに――、というところだろうか。
「帰る?」
「……どうして、そんなこと、言うの」
『むーちゃん』は泣くことにしたようだ。はらはらと涙を落とす。
「うーん」
碧は首を捻る。
「俺を疑ったみたいだし、信じてない男と一緒にいてもしょうがないんじゃない?」
「そんなこと……ない、よ? 信じてるよ? 私、アオくんのこと信じてるし」
「どうかな」
「証明できるよっ、ほらっ」
「!」
身を乗り出した『むーちゃん』が碧の手を取った。そのまま胸を触らせる。……よほど自信があるのだろう。
不意打ちを食らって一瞬驚いたが、碧はすぐに口元を閉じた。ためらわず触り、すっと手を離す。
この程度で動揺なんかしない。
カフェバーでのバイト時代、女性客のあしらい方を指南してくれたのは心理分析が得意な同僚たちだ。
「はい」
その手で床の上の服を拾って渡す。
……君の体に俺を欲情させる力があると思ってる?
嘘で麦を苦しめ続ける女に、心の目でこの上ないほどの侮蔑を送る。
「送るよ」
碧はにこり、と笑顔を向けた。
【碧視点終わり】