姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

懐かしい友達



 バイト先となる和食店の前で一旦立ち止まった。
 少し迷い、眼鏡をはずしてバッグにしまった。
 ……ここでだけ、いいよね
 誰も私のことを知らない場所で、ほんの少しだけ息をつきたかった。

 恐る恐るドアを開けると従業員が整列していた。
 と同時に、だしの良い香りがふわっと鼻に届く。

「ちょうど良かった。宮原さん、こっちへ来て」
 懐かしい記憶を持て余しながら、面接の際もお世話になった店長の横へ並んだ。
「今日から厨房に入ってもらう宮原さんです」
 私は慌てて会釈した。
「初めてのアルバイトだそうです! 分からないことは何度でも教えてあげてください。みなさん、親切にね。では今日も明るく、楽しく、仲良くやりましょう!」
 店長の言葉に胸がどきどきした。親切に、明るく、楽しく、仲良く、だなんて――もし、本当にそう接してくれたらすごく嬉しいけど。

「宮原さん、従業員の出入り口とロッカーを教えるからこっち来て」
「は、はい」
 言われるがまま後を付いていく。そっと周囲を窺うと、皆笑みを湛えてお辞儀をしてくれた。
「……」
 見下される視線に慣れてしまっている私の心は、その温かさに戸惑い、そして気を引き締める。
 バイトに来てよかった。
 精一杯がんばろう、嫌われないように――と願った。

 私はこの日誠実に働いた、と思う。
 食器の洗い方、戻し方、整理整頓の仕方、覚えるルールもたくさんあったが迷惑を掛けないように頭に叩き込んだ。


「むーちゃん」
「!」
 バイト終了の時間が近づいてきた時だった。自分を呼ぶ声に反射的に振り返った。

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