姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「悔しいっ、くやっ、……くやし――っ」
悔しい――なんて言葉じゃ足りない。
あの怪我から、睦美は私が持っているものすべてを奪っていったのだ。言動も、表情も、友達も、親の愛情も。
「っう、うっ、ううっ」
なんのために我慢し、苦しみ、罪の意識に苛まれてきたのか。睦美を恨みそうになるたびに自分を責め、卑屈になった。睦美に許してもらうことが私の人生のすべてだったのに。
「もう、いい」
どれほど泣いても、両手の拳で床を叩きつけても、頭の中の不協和音は止まらない。
片手で頭を押さえ、よろりと立ち上がった。
……確かなことはひとつだけだ
私は、ゆらゆらと虚空を睨む。
……睦美には最初から傷跡なんてなくて、私はただ騙されていた
「――したことの責任は取らないとね」
低い声が出た。
いつも睦美に言われていた言葉だ。
クローゼットの奥からクッキーの空き缶を引っ張り出した。
蓋を開け、床にお札と小銭を広げる。
お年玉や毎月の小遣い、学校に必要なものを買うために貰ったお金すら極力使わずに貯め続けた。
『美容医療』なら睦美の傷痕が治せるんじゃないかと、一縷の希望に縋ってきた。
「……っ」
数えたお金を乱暴に財布に詰め込み、入りきらないほとんどを元の缶へと戻した。
冷静になれ、
何度自分に言い聞かせたか分からない言葉をまた、呟く。
このままでは前に進めない。
奪われたものは二度と取り返せない過去だ。分かっている。だけどせめて私が被った泥を払い落として、可能ならば洗い流して、その泥水を睦美の足元へ――いや、それだけじゃ足らない。
汚く濁った泥水に溺れるほど浸る睦美を見ることができたなら、私は自分の人生を取り戻せるだろうか。
震えている肩に必死に呼吸を送る。
……取り戻す以前の問題だ。そうしなければ、失ったこれまでの日々が名残惜しくて……生きていけそうにない。