姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


 いつものようにノックもなしにドアが開いた。
「ごはん」
 睦美の声は尖っていた。
「……」
 睦美の顔は見なかった。目が合えば、この怒りも悔しさも悲しさも、すべて見透かされてしまうだろう。
 私は静かに腰を上げた。
 
 私は『睦美がいないと食事をしない』ことになっていた。だから母は睦美を伝言役にして私を食卓に呼ぶ。睦美の帰りが遅い日は、鳴り続けるお腹を擦りながら部屋でじっとしているしかなかった。
 どうして睦美がそんなことまで望んだのか――すべてを知った今ならばその理由にも行き着く。睦美は、自分がいないところで私と親を接触させたくなかったのだ。いつ私が苦しさに耐えかねて、親に助けを求めるか分からないから。

「ねえ、大学生になったんだし外で食事済ませてきたら?」
「……」
「で、私より遅く帰ってきて」
「……」
 睦美はいつになく機嫌が悪かった。
 ……アオくんと、うまくいかなかった?
 何があったのか、聞きたい気持ちをぐっと我慢してただただ俯いたままでいた。

「はあ」
 大きな溜息が聞こえる。
「とりあえずさっさと食べてよ。私、今日すっごい疲れてるから早くお風呂入りたいの」
「……」
 睦美の背中を見ながら階段を下りた。

< 43 / 134 >

この作品をシェア

pagetop