姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
いつものようにノックもなしにドアが開いた。
「ごはん」
睦美の声は尖っていた。
「……」
睦美の顔は見なかった。目が合えば、この怒りも悔しさも悲しさも、すべて見透かされてしまうだろう。
私は静かに腰を上げた。
私は『睦美がいないと食事をしない』ことになっていた。だから母は睦美を伝言役にして私を食卓に呼ぶ。睦美の帰りが遅い日は、鳴り続けるお腹を擦りながら部屋でじっとしているしかなかった。
どうして睦美がそんなことまで望んだのか――すべてを知った今ならばその理由にも行き着く。睦美は、自分がいないところで私と親を接触させたくなかったのだ。いつ私が苦しさに耐えかねて、親に助けを求めるか分からないから。
「ねえ、大学生になったんだし外で食事済ませてきたら?」
「……」
「で、私より遅く帰ってきて」
「……」
睦美はいつになく機嫌が悪かった。
……アオくんと、うまくいかなかった?
何があったのか、聞きたい気持ちをぐっと我慢してただただ俯いたままでいた。
「はあ」
大きな溜息が聞こえる。
「とりあえずさっさと食べてよ。私、今日すっごい疲れてるから早くお風呂入りたいの」
「……」
睦美の背中を見ながら階段を下りた。