姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「私ね、ずっと非公開で日記つけてたんだ」
鬱積した感情を吐き出すだけの場所。
睦美に騙されていたと知らなければ、永遠に隠しておいて、睦美の傷痕を治した後で葬ろうと思っていた場所。
「それを、時期が来たら公開しようと思う」
「私には先に読ませてくれる?」
「もちろんだよ」
私はURLを麗に送信した。
『公開』すると決めた後、睦美に関連しないこと――もちろん、麗や碧について書いた部分は削除した。
「私にできることがあったら言ってよね」
麗は私を止めなかった。そのことに勇気をもらう。
「じゃあ、れいちゃん、さっそくなんだけど……」
「なになに!」
身を乗り出した麗に、小さく笑ってお願いした。
「メイクの仕方教えて」
過去、メイク用品を買ったことも使ったこともなかった。
「あと、服とか買うのつきあってほしい」
「まかせてよ。それから?」
「お墓参り――に行ってこようと思ってる、お母さんの親、の」
麗が、はっと思い当たった顔をした。
「そういえば、お姉さんって……」
「うん」
睦美が母の祖父母と暮らしていたことは麗に話してあった。
「でも住所しか知らなくて」
「お葬式とかは?」
「いつのまにか終わってたんだよね。亡くなったこともだいぶ経ってから知ったし」
母方の祖父母とは結局会うことが叶わぬままだった。それに、睦美からも母からも祖父母の話題が出た記憶はない。
「近所の人にいろいろ聞けたらいいな、って」
『墓参り』というもっともらしい理由の裏には、睦美がどんな風に暮らしていたのか知りたいという思いもあった。――なぜ睦美だけがそこで暮らしていたのか。可能ならば睦美の弱みになるようななにか……。
「そのお墓参り、私も付いて行ってもいい? ついでに旅行しない?」
「……いいの?」
ひとりでは心細く、麗に一緒に行ってほしいと頼むつもりだった。なのに先に誘ってくれるなんて。
「信越方面、行ってみたかったんだ!」
「れいちゃん、……ありがとね」
しみじみ伝えた。
「外泊は大丈夫そう?」
麗の質問に、どうだろ……、と言葉を濁す。
過去、一度も外泊をしたことはない。
「当日、言おうかなって。終電を乗り過ごしちゃって漫画喫茶で時間を潰すとかなんとか……」
母には叱られるだろうが、今の私には些末なことだ。問題は睦美の目を誤魔化せるかどうかだ。
「お姉さんが先に外泊すればいいのかな?」
「え?」
「そうすればむーちゃんが外泊したことはバレないよね」
「……うん」
そんな都合のいいことが起きればいいけれど……。
「とりあえず運を天に任せて、買い物にいこう」
――そんなやりとりをした旅行前日のことだった。
睦美が『明日、友達の家に泊まるね』と母に言っているのが聞こえた。