姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~


 ……そんなこと、想像したこともなかった。そもそも、母に姉妹がいたことも初耳なのに。

「……どうして、私のお母さんが可哀想なんですか?」
 動悸が激しくなる。開いてはいけない箱を前にしている気分だった。
「それはおばさんからは言ってはいけないと思うの。睦美ちゃんは今、李加ちゃんのお家でお世話になっているんでしょう」
「……っ」
 ここまで匂わせておいて口を噤むなんて……。
 苛立ちを覚える。

「実はっ、結婚して家を出ようと思っているんです。それで、自分のルーツを探しに、ここへ来たんですっ」
 でまかせの言葉に自分でも驚いた。でも罪悪感など感じなかった。岡田さんの目が碧へと流れた。
「あっ、そうだったの。そちらの方と?」
「はい。彼女と結婚します」
 碧は、私のついた嘘にすぐに乗ってくれた。
「それで一緒にお墓参りにきました。あとで場所を教えていただけませんか」
 そうして私は、免罪符を得た岡田さんから事情を聞き出した。





    *

 碧が運転するレンタカーの後部座席で、深く息を吐いた。

 
「むーちゃん、大丈夫?」

「心配かけて、ごめん。けど、びっくりしちゃって」
 麗にもたれながら気持ちを落ち着かせる。碧もバックミラー越しに何度も私を見ている。

「だって……、双子だったのが私たちじゃなくて、母たちだったなんて」
 麗の声と共に碧の頭も上下に揺れる。

「衝撃だったよね」
「しかも父親が同じって……、なんなのよ、それ……」
 父が、双子だった母たち姉妹の両方と関係を持ち、私と睦美が生まれた。両親がひた隠してきた事実はこれだったのか。

「はあ、やんなっちゃうよ……」
 両手で重くなった額を押さえた。――でもふたりが一緒にいてくれてよかった。
 我が家の恥部が友達に露呈してしまったことよりも、抱えきれない事実を共有してもらったことが救いになった。もっとも、麗と碧じゃなければそんな風には思わなかっただろうけれど。

「……むーちゃん、お墓参り、どうする?」
 交差点の赤信号で碧が聞いてきた。
「左折すると霊園で、右折で駅だよ」
 碧は岡田さんから霊園の住所と詳しい墓の場所を教えてもらっていた。

 私は身を起こし、左右の道路を目視した。
 すぐに答えが出た。

「お墓参りはやめておこうかな。アオくん、せっかく場所聞いてくれたのに、ごめんね」
 そのために来たとはいえ、会ったことのない故人の冥福を祈っている余裕は今の私にはなかった。
「行きたくなったらまた一緒に来ればいいよ」
 碧はウインカーを右に出した。

「うん」
 深く考えず頷いた。……はあ、
 また溜息が出た。

 整理しなければいけない感情が散らばりすぎて手の付けようがない。

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