姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
岡田さんから聞いた母たちの過去は、現実味がなかった。
――――私の母と睦美の母は、その見た目同様に好みも同じだったらしい。洋服も髪型も持ち物も、進学先までいつも一緒でとても仲が良かった。周囲には『将来は双子でアナウンサーになりたい』と話していたほどに。
だが卒業後、母は看護師の道を選び、睦美の母は大学へ進学した。大人になり進路が違ってくるのは当然のことだと、周りは気にしなかった。けれど裏の事情を知っている人がいた。たとえば岡田さんの娘。
母たちと幼なじみであった彼女は、睦美の母から『李加がなんでも私と同じにしたがる』と相談されていたという。だから学力が足らず母が大学への進学を断念した時は、ようやく離れられると喜んでいたそうだ。
しかし母はその後も睦美の母につきまとった。しまいには睦美の母の婚約者を奪った――。
睦美の母は身籠ったまま捨てられ、数年後に重篤な病気がみつかり親を頼るまで、ひとりで睦美は産み育てたという。
「お母さんは、病気になるまで睦美ちゃんをたったひとりで育てたのよ。『叔母さんを本当の親だと思ってる』なんて……言わないであげて」
そう締めくくった岡田さんの言葉には、私の母への嫌悪があった。
正直、いい気はしなかった。それどころか――
「……」
私は心を決めて、顔を上げた。
車はいつのまにか駅前の大通りへと入っていた。
麗と碧がパニック状態の私を黙って見守ってくれていたと知って、胸にこみ上げてくるものがあった。
「――――私」
奥歯から力を抜いた。
岡田さんの話を頭の中で必死に組み立てたけれど、やっぱり、なにひとつ頷けなかった。
――睦美が現れる前の両親はとても仲が良く、家の中はいつも笑いに溢れていた。
父は母を『初恋』だと言い、子供だった私に、出会った瞬間に頭上で鳴った“運命の音”について楽しそうに語った。隣で聞いている母が『またそのはなし……』と恥ずかしがって呆れる――そんな幸せな記憶を、私は今も覚えている。
「私は、」
麗と碧が言葉の続きを待っている。
ぐっと顎を上げる。
「私は、信じないよ」
私の知っている母は、誰かに嫌がらせをしたり奪ったりするような人じゃない。
「うん。おばさんがそんな人のはずがない」
麗が断言してくれた。
「俺も信じないよ、むーちゃん」
碧も支持してくれた。
「……ありがとう」
味方で入れくれる麗と碧の言葉が、今の私の支えになった。