姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「おや、むーちゃん、おはよう」
麗がニマニマしながら言う。
「わ! 私今寝てたよね。記憶飛んでる!」
「四十分ぐらい落ちてたよ」
碧が教えてくれる。
「悔しい」
本心から言った。この楽しい空間を一秒でも長く味わっていたかったのに。
「ってことで次、私が寝るわー」
そう言って麗はベッドに横になると、あっという間に眠ってしまった。
「アオくんは眠くない?」
「俺は大丈夫。むーちゃんは?」
「私は、今ちょっと寝たから」
……だからまだ話していたい。
でもその言葉は、心の中で言った。
「むーちゃんは卒業後の進路は決めてるの?」
「!」
会話が始まることが嬉しくて唇を開きかけ――、未来の展望がない自分には、話すべき理想や夢がないと思い至る。
そういえば、睦美はアナウンサーになるつもりでいる。親と同じ夢だなんてこれが遺伝子ってこと……? でも……
「ママの夢が、アナウンサーだったなんて、聞いたことないんだよなあ」
「ん?」
碧が、私の小声に耳を寄せる仕草をし慌てて両手を胸の前で振った。
「あっ、独り言! 今のはナシ。えっと私は、何が自分にできるのかこれから考えようと思う。――アオくんは?」
強制的に、会話のバトンを碧に渡した。
碧はすぐに受け取ってくれた。
「数年はこっちで頑張るつもり。でもいずれは北海道へ戻りたいと思ってる」
「そっか……」
また離れることになるのかと、しんみりしてしまう。
「むーちゃん、北海道ってどう思う?」
「え?」
「あ、いや。好きか嫌いかでいったらどっちかなって」
私は斜め上に視線を向ける。行ったことはないけど……
「きっと良いところなんでしょう?」
東京生まれの碧が、戻りたいと思うほどの場所なんだから。
碧の口角がふっと上がる。
「良いところだよ、むーちゃんに見せたい景色がたくさんあるんだ。今度案内するよ」
「……うん」
私は静かに頷いた。
けれどその約束は、さすがに切なかった。
……そんなに素敵なところなら、いつか睦美のことも連れて行くんでしょう?
本当は今すぐ聞きたい。
……ねえ、睦美のどこが好きになったの?
碧は、外見なんか気にならない、と言った。
それなら睦美のなにを好きになったのだろう。
性格? フィーリング? 直感? 運命?
……どれも、嫌だ。
「外見で好きになった」と言われた方がまだ救われる――と、気づいてしまった。
「むーちゃん、眠いなら寝てもいいよ」
「!」
碧の気遣いに慌てて顔を上げた。
「まだ眠くない」
嫉妬心を閉じ込める。
碧と過ごせる今がとても、とても大切なことに――切なくて泣きそうだ。
「じゃあ、さっきの続き―――」
それから私たちは麗が再び会話に合流するまで甘く……ノスタルジックな空気感の中、誰にも奪われることのないひとときを過ごした。