姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
彼女にしてくれない碧に痺れを切らし、睦美は友人たちを待ち合わせ場所に連れてきたらしい。『わあ、カレシ?』『お似合い!』『むーちゃんをよろしくお願いします!』そんな言葉を言わせたいがために。
だがその中のひとりが、碧にこっそり連絡先を渡してきたという。
「よくよく話を聞いてみたら」
「うんうん」
「光里ちゃんが片想いしてる男友達が、睦美を好きになったらしい」
「ええー、なにそれ地獄じゃん」
「睦美は光里ちゃんの気持ちに気づいてその男を振ったらしいけど、そこが鼻についたんだって。――で、俺を利用してやり返したいってわけ」
「“光里ちゃん、かわいそう”って一瞬思ったけど、自分だって友達の男に手を出そうとしてるんだし、どっちもどっちだわ」
――やだやだ、私はそんな友達はいらないね
麗は鼻先を鳴らす。
麦と離れてから麗にも友達はたくさんできた。
それでも麦との日々を忘れることはなかった。
麗が当時住んでいた家は長屋のような佇まいの都営住宅で、クラスの友達は「れいちゃんちには汚いから行っちゃだめだって」「れいちゃんがおうちに来ると汚れるから家に入れたらだめだって」と、親に言われたことを繰り返し伝えてきた。
外観は汚くとも家の中は清潔だったし、同じ服を繰り返し着ていても毎日洗濯されていたのに。
でも麦だけは違った。
自分と仲良くするせいで他の友達から敬遠されるようになっても、態度を変えなかった。
麗は何度か、そっちの友達のところにいっていいよ、と心にもないことを言った。素直で元気で明るい麦を嫌いな子はいない。自分と離れればすぐに楽しい輪の中心に戻れる。なのに麦は、れいちゃんがいい、と言ってくれた。どれほど嬉しかったか。
そんな色褪せない思い出を記憶の箱にしまったまま、履歴書に麦の名前をみつけた日――
動揺と興奮がない交ぜになって、麗の気持ちをかき乱した。
いつかまた会いたいと願っていたのに、いざとなると燻ぶっていた感情が湧き上がってきた。……ずっと返事くれなかったのになんで今さら……
……。
――いや、理由を聞いてからにしよう
記憶の中の麦は、手紙を無視するような子ではなかった――それも事実だったから。
麦の初出勤日、麗は再会が待ちきれず麦よりも先に店に着いてしまった。
……どのタイミングで話しかけようかな
麗はあれこれと考えた。
……第一声はなにがいいかな、子供の頃みたいなハイタッチで決まりかな、でもちょっと緊張するかも……
少し離れたボックス席でそわそわしていると、麦が入ってきた。