姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
麦の反応はある意味予想通りだった。
やはり手紙は麦の元に渡っていなかった。
自分たちは長い時間、お互いを誤解して過ごしてきたのだ。
咄嗟に浮かんだのは、あの当時友人たちの親から『れいちゃんとは遊ばない方がいい』と言われていたことだ。
麦の親が同じように思っていたとしても不思議ではない。
……けれど毎日のように麦と遊んでいて、麦の母親から嫌味を言われたことも疎まれた記憶もなかった。
麗の母もよく言っていた。
『お医者さんの奥様なんて威張り散らしてるかと思ってたけど、気さくだし穏やかだし、むーちゃんに愛情いっぱい注いでるし、本当に素敵なお母さんだよね』
麗の印象も同じだった。
であれば、子供の友達を選んだのは麦の父親なのだろうか?
答え合わせをしたいわけではなかったから、この話はここで終わった。
……それにしても、なぜ外見に無頓着なふりをしているのだろう
化粧っ気のない素顔でも吸い込まれそうな澄んだ目や可愛らしいふっくらとした口元は隠しようがない。なのに不揃いの髪で目元を隠し、性別不詳とも言えるような服と、穴が開きそうなスニーカーやバッグを身に着けて、常に俯いている。
記憶と正反対の雰囲気が麗には不思議でならなかった。
その理由がようやく分かった時、麗は泣いた。
……よくも、私の大切な友達を
たとえそれが双子の姉であろうと許すことはできなかった。
その気持ちは碧も同じ――いや、睦美と直接やりとりをしている碧の方が沸々と滾っているのかもしれなかった。
*
碧が降りる駅が近づいてきた。
「似た者同士だったのは俺たちだけでよかったのに」
碧がぼそりと言った。
「……」
碧の言葉の意味はもちろん分かっている。
離れてからも近況を報告しあっていたこともあり、互いの立場に共感するところが多かった。碧は怪我で、自分は貧しさで『青春』とは無縁だったから。
だが麦だけは、希望のように“無傷”であることが慰めだった。それなのに。
「むーちゃんには幸せでいてほしかった」
碧の言葉は子供の頃の無邪気な麦を脳裏に蘇らせた。
「むーちゃんは太陽の下で大きな声で笑ってるのが似合ってた」
麗は瞼の裏に力を込める。
そんな当たり前のことすら、突然現れた姉によって奪われていたなんて。
だけど……
「大丈夫だよ、これからは私たちがいるんだから」
そう。睦美にこれ以上好き勝手はさせない。
「“復讐してやろうよ”」
子供の頃、麦と一緒に碧を励ました言葉を意識的に使った。
本当は碧の肩に手を回したかったが、満員電車の中で腕を上げるわけにはいかない。
電車がスピードを落としている。
碧は立ち上がった。お互い言葉はいらなかった。
碧は片手をあげ、麗はてのひらを振った。
【麗視点おわり】