姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
第三章
もう従わない
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睦美は帰宅してすぐ私の部屋に入ってきた。
昨日一日おとなしく部屋にいたかどうかを一方的に質問し、私の髪型に気づいた。
「――私がいない間に髪切ったの?」
「あ、うん、バイトで注意されて」
洗面所でスタイリング剤を洗い流し、わざとばさばさの髪でいたけれど睦美には通用しなかった。
「……ふーん」
私を正面に捉えた睦美の目つきは、不満というにはあまりにも強く、敵意に満ちていた。
「どこで切ったの?」
「えっと、バイトの店長が紹介してくれたところで店名は……なんだったか、な」
もごもごと言う。
「ねえ、自分で似合ってると思ってる?」
「……よく、わかんないけど」
「じゃあ断りなよ! カット代いくらしたの?」
睦美は低く怒鳴った。と同時に、机の上にあった参考書をつかみ、投げつけてきた。
反射的に両手でかばったが、鈍い音と共に腕をかすめて床に落ちた。
「価値も分かってないのにもったいないと思わない?」
睦美は私の痛みなど最初から気にも留めていない。だから崩れた体勢の私の肩を容赦なく強く押せるのだ。
腰が机にぶつかって、固い音が立つ。
私は肘で体が倒れないようになんとか支えた。
「ちょっと稼ぎ始めたからって調子に乗ってる?」
「……」
今までの私なら、睦美のどんな理不尽な怒りにも「ごめん」と謝っていた。
だけどもう、絶対に謝りたくない。謝るものか。
その決意の分だけ睦美がヒートアップすると分かっていても、私は無言を貫いた。
「髪型どうにかしたって意味ないって言ってんの」
この、ひねるような低音と高圧的な目つきは私しか知らない。――そんなのもったいないよね?
……決めた
私は這いつくばるような心境で、決意した。
睦美のこの姿を、たくさんの人に見てもらう。
睦美の暴言を遠くに聞きながら、脳内でその方法を検索する。
そうだね、録画できるカメラを買おう。ひとつじゃなくていくつも。
幸い私には貯め続けたお金がある。復讐のために使うなら惜しくない。
「わかったの? 次にカットするのは私の許可を取ってからにして」
「……」
新しい服すら買うことを許されないのに、髪を切る許可など出るわけがない。
「どうせバイトと家と大学を往復してるだけでしょう」
睦美は意地悪く笑った。
「……」
私も、頭の中で低く笑う。
……睦美、みんなに見せてるお嬢様ぶった優しく儚げな姿、私が暴露するから、待ってて
「ねえ、黙ってないで何とか言いなよ」
縮こまった私に満足しながらも、睦美はさらに私を追い詰める。
いつもそうだ。
私に『ごめんなさい』と、何度でも謝らせるために。
「だいたいさ、カレシもいないくせに身なり気にしたってしょうがないじゃん」
「……カレシ」
今朝まで一緒にいた碧が一瞬にして目の前に現れて、私は無防備に呟いてしまった。睦美が、値踏みでもするように私を見下ろしていることにも気づかずに。