姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「ねえ、麦ちゃん、まさかカレシ欲しいの?」
「え」
「それで髪切ったの?」
睦美は突如声を上げて笑った。
「ウケるんだけど!」
「……」
「あー、でもそれいいかも」
睦美はにやっと笑って、そこからはもう私を見なかった。
私を痛めつける方法を探し当てた時の顔はこれまでに数えきれないほど見てきた。経験上、睦美の行動も大体の予想がつく。
その答え合わせは数日後にやってきた。
*
「麦ちゃん、今日の講義午前中だけだよね、男紹介してあげるから午後空けといて」
「……」
こちらの予定も都合も、当然気持ちも聞かず一方的に伝えてくる。これが自分たちの関係性だ。
「名前は須賀君。自分から『つきあってください』って言わないとね」
「!」
……え、須賀君って、あの?
私は、その名の男の人を脳裏に呼ぶ。
名門高校から外部進学してきた人で、家がお金持ち。
『私に釣り合うのはこの人かな』――睦美が、複数いる対象者の中から一番の“恋人候補”に位置付けていたはず。
……そうか、アオくんに乗り換えるのに、須賀君が邪魔になったんだ
私は静かに、そこへ行き着く。
睦美がやりそうなことだ、と思った。
「オッケーもらうまで強気で押してね」
「……うん」
私は従順な妹を装った。
時間通りに、待ち合わせの駅前広場へ行った。
そこにはそわそわしながら睦美を待つ須賀が立っていた。
私は目深にかぶったキャップのまま近づいた。