姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
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――「この前ね、睦美と成人式の着物を見に行ったのよ。麦も着物着るでしょう?」
「……」
車を走らせてすぐ、母が楽しそうにそんなことを言うものだから、抑えていた泥のような感情が足元から上がってきてしまった。
「なんで睦美とだけ行ったの」
質問ではなく、投げつけるような言葉尻になった。
「え?」
母は焦ったような顔になった。
「あ、麦も、行けた? 誘えばよかったね」
「……」
確かに私は、暇さえあればバイトを入れている。
たまたまその日は、睦美が家にいて自然な流れで出掛けただけかもしれない。けれど……
「ママは、私のママじゃないの? なんで睦美の話ばっかり信じるのよ」
母の子供が自分だけだと知った時から独占欲が募っている。
「どうしたの? 睦美とケンカしたの?」
「そういう話をしてるんじゃないよ。ママは、私が中学でどう扱われてたか知ってたのに」
唐突に昔の話を始めた自分を、頭の中で必死に引きとめる。
“そんな話、今どうでもいい”――分かっているのに、止められない。
「授業参観で、私がクラスで浮いてたこと、気づいたのに」
『私もフォローしてるんだけど、クラスが違うからずっとは無理で……』
心配した母に、睦美が涙ながらに伝えた。
私は学校で“気難しくて不機嫌で、それが理由でみんなから敬遠されている”と。
優しい姉を演じた睦美に母は、
『――麦は家と同じようにしてるのね……』
そう言って溜息を付いたのだ。
私が母の目にそう映るように行動したことを棚に上げてでも……、母には見破ってほしかったのに。
「高校の時は、もう私の人格決めつけて疑問も持たなかったっ」
不満には際限がない。
「私がそうしなきゃならなかった理由っ、……なんで真剣に探ってくれなかったのっ」
「麦?」
母はハンドルを握りながらも、興奮する私に何度も視線を向けた。
「ごめんね、麦、――なにかあったの? ママに話してくれない?」
「!」
なだめるようなその声色に、それまで我慢していた『甘えたい』という欲求が膨れ上がって、自分の意思ではどうにもできなくなった。
「今だってっ、私がこんなに喋ってることおかしいと思わないっ?」
これまで睦美の言いつけを守って親とは距離を置いていた。こんな風に会話がリレーすることもなかった。なのにどうしてそこに触れてくれないの?
「麦はママに怒ってるのよ、ね?」
母の困ったような戸惑った表情が、さらに私の心を逆なでした。
「は……、なんの理由で私が怒ってると思ってるの?」
「それを言ってくれないと、ママには分からないよ」
「……っ」
言葉にしなければ伝わるはずがない――そんなことは百も承知で、察してほしいと――強く願う。
「麦、ごめんね、睦美を勝手に迎えてしまったこと、ずっと許せないんでしょう?」
「……なに、それ」
導き出した答えがそれなのかと、失望の中で目をぎゅうっと閉じた。
「だけどこうしてママに気持ちをぶけてくれるってことは、麦にも心境の変化があったのよね?」
「……」
「これからは家族みんなで仲良くできるわよね?」
「……」
……落ち着いて、麦
自分で自分に声を掛けた。
母の愛を求めすぎた――その極論に、心がすうっと冷えていった。