姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「――――私は、睦美が家に来たときから睦美を受け入れてた。そのことママは忘れちゃったみたいだね」
もう母の答えはいらない。
だけど、過去の自分の姿が捻じ曲げられることは拒否する。
「ママは睦美の言うことならなんでも信じるんだ。実の娘のことより愛情持って育ててたもんね」
「!」
母が打たれたような顔になった。
……言ってしまった、と思ったが私の唇は止まらなかった。
「なんなら試しに言ってみてよ、……『成人式の着物、もう“麦”に用意してあげた』って」
母と睦美が『仲良し親子』をしている様子が、弾かれたように脳内に現れて私の心を荒ませる。
「睦美は哀しそうにしながらこう言うはずだから――『麦ちゃんに伝えたらそんなのいらない、絶対着ないって怒ったの』」
心はどんどん固くなるのに、唇はどんどん滑らかになる。
「その先の言葉も想像できるよ、『そんなのよりお金が欲しい』とか『成人式に出ない』とか。あ、『買ってきたら切り刻んでやる』とかもあるかもね」
想像したら笑えてきた。
「アナウンサーより脚本家を目指せばいいのに。“妹”の言葉を勝手に創作する才能があるんだから」
「……」
言葉を止めると、車内に充満する重たい空気が一気に喉の奥に入ってきた。
母を横目で見た。
……なにか、言ってほしい、と切実に思った。
睦美の悪行を知って、一緒に怒ってくれてもいいし、泣いてくれてもいい。
母が口を開いた。
「……麦、いつから、知ってたの? だから……ママのこともパパのことも、睦美のことも怒ってたの?」
「!」
なんでそうなるの?
あくまでも私を、――私の意思で、私を根暗で陰湿で不機嫌だったことにしたいの?
ここまで言っても、睦美に怒りや憎しみを向けてくれないの?
「そんなことが、私が“こうなっちゃった”ことよりも重要?」
私は再び、我を忘れた。
「睦美が、お父さんの子だけどお母さんの子じゃないってことより?」
「!」
私が投げつけた言葉が、母を動揺させたことは間違いなかった。
母はおもわずアクセルから足を離していた。後続車にクラクションを鳴らされても周りが見えないほどに。
……間違えちゃった
私はようやく最悪な暴露になったことに気づいた。
……もうだめだ
母に味方になってほしかっただけなのに、なぜこんな方法を取ってしまったんだろう。
震える自分の指先をぎゅうっと太ももに押し付けた。
――私は、この時は気づけなかった。
母もまた、過去の自分と抗えず向き合っていたことに。