姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
父は挨拶もそこそこに言った。
――実李の忘れ形見を引き取ってもらわないと、と。
え……?
忘れ形見?
どういう、意味……?
この日、頭でも心でも処理しきれない現実が次々と李加を襲った。
実李はすでに亡くなっていて、実李の遺言に従って李加にはその死を知らせなかったこと。
実李には子供がいて、両親が育てていたこと。
その両親も体力の限界を感じ、家を処分して老人ホームに入ると決めたこと。
「実李と婚約者だった男との子供だ」
父の言葉に李加はまだ“何が起きているのか”気づかなかった。それほどに突拍子もなかった。
「その婚約者の人には連絡したの?」
いくら双子の妹だとしても、もう片方の親の承諾も得ずに勝手に子供を養子にするなんて……。
「父親には責任を取ってもらわないと」
「……ああ、そうよね、責任……」
会話が噛み合ってない気がした。
「……」
……ちょっと待って……
李加の脳内に“いつか”の断片が現われた。初めは静かに、だがその正体に思い当たった瞬間、記憶が疾風のように一瞬で近づいてきた。
!
……まさか、『婚約者』って……、光輝のこと……?
実李が産んだ子供は“あの時の”――
そこに行き着いた途端、サアーッと、足元にあった地面がなにかによって引っ張られ、李加はその場にしゃがみ込んだ。
実李がもうこの世にはいない――そのこととも向き合えないのに、光輝に事実を話し、“光輝と実李の子供”を育てなければいけない?
――そこからの数日間は生き地獄のようだった。
光輝は壊れたおもちゃのように同じことを質問し、青褪めながら目を見開いて何度も空笑いをした。
「ごめん……ごめんなさい」
李加は泣いて詫びた。
過去『自分には双子の姉がいる』と打ち明けていたら、“あの日”体を重ねる前に、恋人とは別人だと疑うこともできたかもしれない。――光輝は何も悪くない。
光輝は気持ちの整理が必要だと、家に帰ってこなくなった。
父からは毎日『いつ迎えに来るのか』と電話がきた。
ひとりでこの問題と向き合っていると気が狂いそうだった。
ようやく会えた時、光輝は別人のように暗い目をしていた。