姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「……」
李加は見知らぬ他人を見るように睦美を見た。
「――ママ?」
睦美の声に反応したのは、これまで睦美と過ごした月日の延長だった。
「ママ……ショックだよね、せっかく買ったのに。麦ちゃん、ひどいよ」
「……」
涙ぐむ睦美は『誰』なのだろうかと、李加は睦美に探るような目を向ける。
「でも麦ちゃん、怒ると怖いから……しょうがないよ。もちろん睦美はお姉ちゃんだから受け止めるよ。私にまかせておいて」
「……」
……このやりとり、何度目だっけ
李加は眉間に指を当てた。もどかしい感覚だった。
――必死に、妹の悪態をかばう姉
……あれっ? “妹”って私の娘、麦のことよね?
違う……? ……私?
――『実李を産んで良かった』
『睦美、いつもありがとう』
『同じに育てたのにどうして』
親の言葉にいつも傷ついていた。
……傷ついたのは私、
…………麦、も?
――「私なにかした?」
「なんで睦美の話ばっかり信じるのよ」
……なに、これ、どうして
頭の中で、子供の頃の自分が常に“誰か”に向けていた疑問と、さっき麦が自分にぶつけてきた不満が並走している。
――『私がそうしなきゃならなかった理由っ、……なんで真剣に探ってくれなかったのっ』
!
麦の悲痛な叫びが、幼い頃の自分の心の声とぴたりと重なった。
……まさか
視界が急に狭くなり、自分の外側が真っ黒になっていく。
なぜ麦が、“睦美を勝手に迎えた自分たちに怒っている”と思い込んできたのだろう……
――『私は、睦美が家に来たときから睦美を受け入れてた。そのことママは忘れちゃったみたいだね』
麦の声は、怒りを含んで“あきらめて”いた。
――そうだ、なぜ忘れていた?
睦美をどうしていいか分からなかった自分たち夫婦は、いつも麦に睦美を託してしまったではないか。
麦は親の言うことを素直に聞いて、無邪気に睦美の手をひっぱって遊びに連れて行ってくれた。
“見えていた”ものが真実だったのに、いつのまにすり替わった?
――睦美が“教えくれた”のだ。『麦の人格』を。