姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

 そういえば、睦美を引き取る間際、父に言われた。
 『この子は、実李よりもおまえに似ているようだ……だから気が合うだろう』

 ……どうして私に似ているのよ?
 あの時は睦美を家族として迎えなければならない運命を前に、その言葉に立ち止まる余裕はなかった。ただ、あの場にそぐわない言葉だと、頭の奥で引っかかり記憶の底へ沈ませた。

 ……そういう、意味だったのね
 李加は慄いた。
 ……両親は、幼い睦美の中に“実李が聞かせ続けたであろう私”を見たのだ。
 『本当の実李の性質』を。


「ママ! そろそろ麦ちゃんのアルバイト先にお食事しに行こう。ふたりで行ってびっくりさせようよ! あっ、パパも誘って三人で行こう!」

「……」
 家族の予定はいつも睦美が決めてくれた――そう、“決めてくれる”と感謝すらしていた。『家族ごっこ』をする必要があったから…… 
 
「……そ、そうね」
 李加は取り繕うのに必死だった。
 わずかでも気を抜けば、睦美に『敵』のような目を向けてしまうだろう。

「パパとママと睦美で仲良くしてれば、いつか麦ちゃんも“混ざりたいな”って思ってくれるからね!」

「……」
 睦美の言葉が、表情が――存在が、なにもかもに嘘と裏が見えた。
 
 どうして『これ』を、今の今まで見ないふりできたのだろう……

 李加は、あまりの衝撃に後退りした。
 

 ……ああ、麦、

 ……私の大切な娘、麦、

 ……私と光輝の、輝くような存在の麦、

 麦を孤立させていることにも気づかなかったなんて……
 ――これが、夫婦で逃げ続けた結果?
 
 李加は上着の胸元をぎゅうっと握った。
 呼吸が乱れる。
  
 今すぐに、娘に会いたかった。
 ごめんね……苦しかったね……寂しかったね……、そう言ってただ、おもいっきり抱きしめて、抱きしめて――――許しを乞いたかった。
 
 

 【李加視点おわり】
< 83 / 134 >

この作品をシェア

pagetop