姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「そのことなんだけど、私、もう、つらくて……」
睦美の片頬が、唇と共に上がった。
「私の傷痕はっ! あんたが一生かけて私に償うんでしょうっ! その約束でしょうが!」
ドスをきかせた低音が迫ってくる。
「……胸の傷痕、もう一度……見せてくれないかな」
懇願する。「子供の頃に一瞬だけ、見せてもらったよね……私が、やってしまった……んだよね、でも、どうして私はそのこと、覚えてないんだろう……」
「はあ?」
睦美は目を吊り上げて歯を剥いた。
「私が嘘ついてるっていうわけっ? あんたに付けられた傷のせいで今も胸の半分赤黒く変色したままなのに!」
「ごめ――ごめんなさ……い、でも、もう許して、ほしい……」
私はカーペットに頭を擦りつけた。
「十年……必死にお金、貯めたけど……全然、追いつかない……、パパとママに相談したい……」
私は睦美に逆らって、ぐんと顔を向けた。
――今、ここで頬を叩かれれば睦美の本性が撮れる。
「だからっ! “パパママ”って呼ぶなって言ったよねぇっ」
バチンッ、と音がした。
自分から差し出したとはいえ、叩かれた頬が時間差で熱くなった。じんじんと、痛みが襲ってくる。
それでも耐えて、私はうつむいた。――まるで、これが日常とでもいうように。
「あのふたりは私のパパとママになったの。あんたが私を傷つけた代償に」
睦美は興奮して口走った。
「……」
私は、じっと動かずにいた。
頭の奥でピースが嵌った。――パパとママ《《になった》》
睦美が捲し立てた言葉に、真実があった。
……睦美も、知ってるんだ。自分の出生を。
そこに行き着いたとき、『私の家族』はもう二度と元の姿には戻れないだろうと思った。なぜなら私が――、私が、この嘘だらけの家族を壊すからだ。
その後のことは誰にも分からない。
……願わくは、遠い記憶の中の父と母に会ってみたいと思うけれど。
睦美が現れる前のふたりに。
ただ一度でもいいから。