姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~
「?」
一瞬、意味が分からなかった。
「私は中学の途中まで手紙も年賀状もしつこく出してたし、そこに一方的な報告とか書いてて、だから『琴乃』って店名から察してむーちゃんがバイトにきてくれたんだなって思ってたんだよね。けど違うみたいだし」
「え……」
「アオくんも、お母さんの代筆でむーちゃんに何度も手紙出したって聞いたけど」
「!」
動揺のまま、青褪めた。
「私、知らない。……ふたりから、手紙が届いたことない。ほんと、だもの」
唇が勝手に訴える。
「れいちゃんからもアオくんからも手紙が届くのずっと待ってた。でも来なかったから……」
今日まで、ふたりには忘れられてしまったと思い込んで生きてきた。それでも、大切な思い出として胸に抱いて生きてきた。
「そっかあ」
麗は斜め上を見ながら唸った。
「アオくんがさ、私たちが時間差で引っ越して行っちゃったからむーちゃんは寂しくて、で、怒って返事くれないんじゃないかって言っててさ」
「そんなこと! もちろん寂しかったけどでも怒るとか、そんなのありえないよ」
麗が難しい顔をした。
「そうなると考えられるのは、家族がわざと手紙を渡さなかった、ってあたりかな」
「……」
「むーちゃんの親、お医者さんだし、娘の付き合う友達を選びたかったのかもしれないよ」
「そんなはずない。うちの親は私のことはあきらめ……」
「お願いしまーす」という声と共にシンクの中に洗い物が追加された。
麗がてきぱきと捌きはじめ、私も我に返る。
「……」
そこからは無言で仕事をした。けれど頭の中はぐるぐる――、疑心暗鬼な感情が渦を巻き、仕事に集中できなかった。
勤務時間が終わり、麗に「お疲れ様」と労われた。
私は笑おうとしたけれど、意識したら涙が滲んできた。
「こうして再会できたし、いいよいいよ」
「うん。――そう、だね」
私は、不格好だろう笑顔で頷く。
今更悔いても嘆いても、失った時間は戻らない。
「誤解も解けたし、これでアオくんとも会えるね」
「あ、でも、……怒って、ないかな」
「それを心配してるのはアオくんの方だろうけど、とりあえず事情も事情だから私から経緯説明しとくよ」
麗の提案にほっとしながらも、細い息が勝手に漏れた。
……もう私のことはどうでもいいって、思ってないかな、
会いたい気持ちと不安とでは、不安の方が大きかった。
……どうかアオくんの迷惑になりませんように。
心の中で祈った。