姉に初恋を奪われた私は、もう黙らない ~Silent Summer~

「あ、はいっ、今」
 麗はすぐに操作した。
 もともと麦はこの動画を母に見せたいと言っていた。だから問題ないはずだ。

 ……お父さんにも見せてくれるのかな
 麗は期待と共に願った。
 ……これを見たら、むーちゃんの味方になってくれないかな
 
 
「れいちゃん、今日は本当にありがとう」
 麦の母が静かに頭を下げた。
「麦を支えてくれて、ありがとう」
「いえっ、友達ですからっ」
「アオくんにもよろしく伝えてね。ふたりで家にも遊びに来てね」
「もちろんです、絶対行きますっ」
 ……全部終わったら――
 心の中で付け加えた言葉を、麦の母も感じ取っていると確信できた。

「私と夫――麦の父親のことは心配しないで。今は麦のやりたいように……していいから、って……」
「むーちゃんに伝えます。『もうお母さんは味方だよ、安心して』ってちゃんと伝えます」
 ありがとう、と麦の母は赤い目のまま小さく笑って、また頭を下げた。

 外に出ると、泣いた後のような空が広がっていた。
 
 
    * 
 
 ………むーちゃんママ、そうとうショック受けてたな

 大人をあんな風に泣かせてしまったことに麗自身も引きずられながら、店に戻って仕事の続きをした。

 数時間後、麦からメールが入った。
 今日は土曜日だが麦は必修の語学授業があり大学へ行っていた。
 
 麗はすぐに休憩室で電話を掛けた。
 そして麦の母がバイト先に来たこと、自分が対応したこと、会話の内容――すべてを詳しく話した。

「ママがっ? そ、そっかあ……知ったんだ、全部」
 麦の声は喜びで震えていた。
「れいちゃん……ありがと。ほんとに、ありがと。私じゃきっと興奮しちゃって、半分も話せなかったと思う……」
「こちらこそ、“うちら”のお節介に慣れてくれてありがとね」
 碧も一緒だと、精一杯のヒントを出す。
 自分も碧も、麦と再会してからずっと麦のために動いていた。もちろん、子供の頃の関わりがそうさせたのだ。あの頃もお互いの領域にあっさりと踏み込み合った仲だから。
 睦美によって自尊心を折られた麦は、忘れてしまったかもしれないけれど。
 
「金曜が終わったら、むーちゃんの世界はガラッと変わってる。私が保証するからね。だから頑張ろう!」
 麗は隠し事のせめてものお詫びにと、会話のあちこちに碧についてのヒントを残したが、すでにいっぱいいっぱいの麦には気づくことができないのだろうと、歯痒かった。 
 
 
 
 
 

 
 
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