恋と焦燥のロードマップ
まだ、俺たちはお互いのことを知っている途中だ。それでも、雫との時間を誰かに壊されたくないと思った。
だから、慎重にならなければいけないと思った。雫との時間を守るためなら、少しくらい手間が増えることなんてどうでもよかった。帽子も眼鏡も、今の俺には必要なものだ。南條湊斗ではなく、ただの湊として雫と会うために、俺が選んだ小さな準備だった。
それからしばらくの間、俺は雫と会う場所を少しだけ選ぶようになった。人の多い駅前を避け、店を予約するときも、できるだけ奥まった席を選ぶ。待ち合わせも、駅の中央ではなく、少し離れた出口にするようになった。以前なら、そんなことまで考える必要はなかった。会いたい相手がいるなら、時間と場所を決めて、そこへ向かえばいい。それだけだった。
雫には、そこまで気を遣っていることを話さなかった。理由を説明すれば、きっと彼女は気にする。自分が俺と会っていることで、何かに巻き込まれるかもしれないと思えば、今までと同じように会えなくなるかもしれない。それだけは避けたかった。
だから、雫の前では今までと変わらない顔をしていた。
会えば笑う。くだらない話をする。次に行きたい店を探す。そんな普通のことを、普通に続けていた。
気づけば、雫とのやり取りは生活の中に自然に入り込んでいた。
朝、仕事へ向かう途中でスマートフォンを見ると、雫から短いメッセージが届いていることがある。俺が忙しくて数時間返事をできない日でも、仕事が終わってから「ごめん、今終わった」と送れば、少しして「お疲れさま」と返ってくる。それだけのやり取りなのに、長い一日の終わりにその文字を見ると、張り詰めていたものが少しだけほどけた。
逆に、雫から仕事の愚痴が届く日もあった。
『雫:今日、ちょっと疲れた』
『湊:何かあった?』
『雫:仕事でミスしちゃって』
『湊:そっか。じゃあ今日は、もう何も考えなくていいんじゃない?』
『雫:でも明日も仕事だよ』
『湊:じゃあ明日のことは明日の雫に任せよう』
『雫:なにそれ』
そんなやり取りをしているうちに、気づけば十分、二十分と時間が過ぎている。特別な話をしているわけではない。それでも、雫と話している時間には、仕事のときとは違う呼吸があった。
だから、慎重にならなければいけないと思った。雫との時間を守るためなら、少しくらい手間が増えることなんてどうでもよかった。帽子も眼鏡も、今の俺には必要なものだ。南條湊斗ではなく、ただの湊として雫と会うために、俺が選んだ小さな準備だった。
それからしばらくの間、俺は雫と会う場所を少しだけ選ぶようになった。人の多い駅前を避け、店を予約するときも、できるだけ奥まった席を選ぶ。待ち合わせも、駅の中央ではなく、少し離れた出口にするようになった。以前なら、そんなことまで考える必要はなかった。会いたい相手がいるなら、時間と場所を決めて、そこへ向かえばいい。それだけだった。
雫には、そこまで気を遣っていることを話さなかった。理由を説明すれば、きっと彼女は気にする。自分が俺と会っていることで、何かに巻き込まれるかもしれないと思えば、今までと同じように会えなくなるかもしれない。それだけは避けたかった。
だから、雫の前では今までと変わらない顔をしていた。
会えば笑う。くだらない話をする。次に行きたい店を探す。そんな普通のことを、普通に続けていた。
気づけば、雫とのやり取りは生活の中に自然に入り込んでいた。
朝、仕事へ向かう途中でスマートフォンを見ると、雫から短いメッセージが届いていることがある。俺が忙しくて数時間返事をできない日でも、仕事が終わってから「ごめん、今終わった」と送れば、少しして「お疲れさま」と返ってくる。それだけのやり取りなのに、長い一日の終わりにその文字を見ると、張り詰めていたものが少しだけほどけた。
逆に、雫から仕事の愚痴が届く日もあった。
『雫:今日、ちょっと疲れた』
『湊:何かあった?』
『雫:仕事でミスしちゃって』
『湊:そっか。じゃあ今日は、もう何も考えなくていいんじゃない?』
『雫:でも明日も仕事だよ』
『湊:じゃあ明日のことは明日の雫に任せよう』
『雫:なにそれ』
そんなやり取りをしているうちに、気づけば十分、二十分と時間が過ぎている。特別な話をしているわけではない。それでも、雫と話している時間には、仕事のときとは違う呼吸があった。