恋と焦燥のロードマップ
やがて電車が速度を落とし、目的地の駅へと入っていく。
「着いた」
「ほんとだ」
電車を降りると、駅の中までどこかゆっくりしているように感じた。人の数も、いつも利用している駅とは違う。
二人で改札を出る。
「まず、お昼だっけ?」
「うん。でも、その前にあっち行ってみたい」
雫が少し先を指差す。
「何?」
「多分、あれ」
指の先を見ると、駅から続く道の向こうに、目的地へ向かう案内が出ていた。
「じゃあ、行ってみようか」
「うん」
雫が先に歩き出し、俺もその隣に並ぶ。知らない場所を歩くのは、思っていたより楽しかった。
仕事で訪れる場所なら、次の予定を気にしながら歩く。けど今日は、時間を急ぐ必要がない。立ち止まりたいところで立ち止まって、気になった店があれば覗いてみる。そんな当たり前なことが、今の俺には少し新鮮だった。
「湊、見て」
「ん?」
「これ、可愛くない?」
雫が店先に並んだ小物を指差す。そんなことを聞いてきた雫も可愛いと思った。口にすることはまだ恥ずかしくてできないけど。
「雫、こういうのが好きなんだ」
「うん。こういうの見るの好き」
「じゃあ、ちょと見ていこうか」
「いいの?」
「時間あるし」
「じゃあ、ちょっとだけ」
そう言って、店の中へ入っていく雫の後ろを追う。
その姿を見ながら、俺はふと思った。こういう時間も悪くない。目的地に着くことが、今日の目的じゃない。雫と一緒に、知らない場所を歩く。それだけで、来た意味は十分にあるような気がした。
店の中には、アクセサリーや小さな置物、地元の名物を使ったお菓子などが並んでいた。雫は一つずつ手にとっては眺め、気に入ったものを見つけるたびに俺に見せてくる。
「これも可愛い」
「ほんとだ」
「こっちは?」
「雫、さっきからそればっかりだね」
「だって、可愛いもの多いんだもん」
楽しそうに笑う雫を見ていると、こっちまで楽しくなってくる。結局、雫は小さな木ホルダーを一つだけ買った。
店を出てから、それを大事そうに鞄へしまう姿を見て、こういう何気ないものを嬉しそうにしている雫が、やっぱり可愛いと思った。
「次、どこいく?」
「んー……」
雫がスマートフォンを取り出して、地図を眺める。
「この辺に神社があるみたい」
「行ってみる?」
「うん!」
< 73 / 105 >

この作品をシェア

pagetop