恋と焦燥のロードマップ
しばらくすると、雫が小さくあくびをした。
「眠い?」
「ちょっとだけ」
「じゃあ、そろそろ寝よっか」
「うん」
繋いでいた手を離すのが少しだけ惜しく感じられたけど、俺たちはそれぞれの布団に入った。
「おやすみ、雫」
「おやすみ、湊」
電気を消すと、部屋の中はすぐに暗くなった。
旅館の中からは、まだ遠くで誰かが歩く音や、扉の閉まる小さな音が聞こえている。子供の頃は、そんな音を聞きながら眠ることが当たり前だった。いつの間にか、それを当たり前だとは思わなくなっていた。
目を閉じると、今日一日のことが次々と思い浮かんだ。
昔歩いた街。
母さんの笑顔。
親父と向かい合って話したこと。
そして、そばにいてくれた雫。
家を出たあの日から、ずっと遠くにあると思っていた場所が、今は思っていたより近くに感じられる。それが不思議だった。やがて、そんなことを考えているうちに、眠りについた。
翌朝、目を覚ますと、カーテンの隙間から朝の光が差し込んでいた。しばらくぼんやりと天井を眺めてから、ゆっくりと身体を起こす。
隣を見ると、雫はまだ眠っていた。
昨日の夜とは違って、無防備な寝顔を見ていると、なんとなく笑ってしまう。
昨夜はあんなに近くにいたのに、こうして朝の光の中で見ると、また少し違って見えた。
髪が頬にかかっていたので、起こさないようにそっと手を伸ばし、その髪を指先で避ける。そのまま頬に指先が触れてしまった。柔らかな感触がして、もう少しだけ触れていたくなる。
起こすつもりなんてなかったのに、気づけば指先で雫の頬をゆっくり撫でていた。
「……ん……」
小さく声を漏らして、雫が身じろぎする。慌てて手を離そうとしたけど、その前に雫がゆっくりと目を開けた。
「……湊?」
「……あー、おはよう」
「……おは…って何してるの?」
まだ眠そうな声でそう言われ、少しだけ気まずくなってしまった。
「いや……」
なんて言えばいいか分からなくて、視線を逸らす。すると雫が、頬に残った俺の指先を確かめるように、自分の頬へ手を当てた。
「……触ってた?」
「まぁ……うん」
「なんで?」
「……可愛かったから」
言ってから、流石に恥ずかしくなった。雫は一瞬だけ黙ってから、布団の中で小さく笑った。
「朝からそれ言う?」
「思ったこと言っただけ」
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