エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。
女子たちは答えに詰まっている。
すると鳳城くんは、私の手にある封筒へ視線を落とした。

「それ、誰が置いた」

誰も答えない。

次の瞬間。
鳳城くんは私の手から封筒を抜き取ると、そのまま中身を確認した。

「あ……」

止める間もなかった。

取り出された便せんには、短くこう書かれていた。

身の程をわきまえて。

息が止まりそうになる。
教室の空気が凍りついた。

鳳城くんの表情が、一瞬で消える。

「……くだらな」

低く落ちた声に、ぞくりとした。

「こんなことでしか牽制できないの、ださすぎ」

「鳳城さま……!」

「聞こえなかった?」

金色の瞳が、まっすぐ三人を射抜く。

「ほのかに手ぇ出すなって言ってる」

教室がざわめいた。

今、名前で呼んだ。
しかもこんなみんなの前で。

顔が一気に熱くなる。
女子たちはショックを受けたように固まっていた。

「行こ」

「えっ」

「ここ、空気悪い」

鳳城くんは当然みたいに私の手首をつかむ。
そのまま教室の外へ連れ出されて、私はただついていくことしかできなかった。

人気のない中庭の手前まで来たところで、ようやく足が止まる。

「……大丈夫か」

さっきまでの冷たい声とは違う。
少しだけやわらかい声に、胸の奥がじんとする。

「う、うん……」

「ほんとに?」

「びっくりはしたけど……でも、平気」

強がりじゃなく、そう言いたかった。
だって、逃げたくなかったから。

鳳城くんはしばらく私を見つめて、それから小さく息をつく。

「無理すんな」

「でも、私」

自分の制服の裾をぎゅっと握る。

「この学園で頑張りたい。ちゃんとここにいていいって、自分で思えるようになりたいの」

言いながら、胸が少し熱くなった。

「だから、ああいうこと言われても……逃げたくない」

しばらく沈黙が落ちる。
風が吹いて、木漏れ日が揺れた。

そのあと鳳城くんは、困ったみたいに笑う。

「……ほんと、おまえさ」

「え?」

「見た目ふわふわしてるくせに、中身は全然ふわふわしてない」

「それ、ほめてる?」

「たぶん」

その答えに、思わず小さく笑ってしまう。

すると鳳城くんは一歩近づいてきた。
また心臓が変に速くなる。

「でも、覚えとけよ」

「う、うん」

「おまえが頑張るのは勝手。けど、ひとりで抱え込むな」

まっすぐ見つめられて、息が詰まる。

「嫌なことされたら、ちゃんと言え」

「……鳳城くんに?」

「俺以外に誰がいるの」

当たり前みたいに言うから、胸の奥がきゅっと甘く締まった。

そんなの、ずるい。
そんなふうに言われたら、頼りたくなってしまう。

「……ありがと」

小さくつぶやくと、鳳城くんの手がそっと私の頭に触れた。
昨日と同じ、やさしい手つき。

「泣かなかったの、えらい」

「泣いてないもん」

「今にも泣きそうな顔してた」

「してません」

むっとして言い返すと、鳳城くんがふっと笑う。

その笑顔が少しだけ甘くて、また胸が騒ぐ。

「ほのか」

「……っ」

急に名前を呼ばれて、肩が跳ねた。

「次からは、俺が先に気づく」

低く静かなその声は、約束みたいに聞こえた。

守られているだけじゃなくて、私はちゃんと頑張りたい。
だけど、こんなふうに寄り添われると、少しだけ甘えてしまいそうになる。
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