エリート学園の最上級王子は、地味な私を離さない。
「俺の家に生まれた時点で、期待されるのは当然」

私は黙って聞くことしかできない。

「でも」

鳳城くんが私の目の前で足を止める。

「それと、おまえを隣に置きたいって思うのは別」

胸が大きく跳ねた。

「鳳城くん……」

「記事に何書かれてても、周りが何言ってても、俺が見てるのはおまえ」

まっすぐすぎる言葉が、痛いくらい胸に落ちてくる。

「でも、もし本当に海外に行ったりしたら……」

思わず口をついて出たその言葉に、自分で驚いた。
そんな未来まで考えてしまっていたなんて。

鳳城くんも一瞬だけ目を見開いたあと、ふっと笑う。

「何。もうそんな先まで考えてんの」

「ち、違……!」

「俺がいなくなるの想像してた?」

その言い方が少し楽しそうで、悔しい。
でも、否定しきれない自分がもっと悔しかった。

鳳城くんは少しだけかがんで、私の顔をのぞきこむ。

「心配しなくていい」

「……ほんとに?」

「少なくとも、勝手にはいなくならない」

そのひと言で、胸の奥がじんわり熱くなる。

勝手にはいなくならない。
それは約束みたいで、期待してしまう。

「ほのか」

名前を呼ばれる。
顔を上げると、鳳城くんの瞳はひどくやさしかった。

「おまえが不安になるたびに、いちいちちゃんと捕まえに来てるだろ」

その言葉に、私は思わず笑ってしまいそうになる。

確かにそうだ。
噂のときも、麗華さんのときも、今回だって。

私が離れそうになるたび、この人はちゃんと手を伸ばしてくれる。

「……うん」

「なら少しは信じろ」

「うん」

今度はちゃんと、まっすぐうなずけた。

すると鳳城くんは満足したみたいに小さく息をついて、私の髪に触れる。

「あと」

「え?」

「勝手に記事なんか見てへこんでんの、かわいくない」

「ええっ」

「気になるなら俺に聞け」

そんなの、できたら苦労しない。
でもその言い方がなんだかうれしくて、胸がくすぐったくなる。

「……努力します」

そう答えると、鳳城くんがふっと笑った。

その空気がやわらいだ、次の瞬間。
コンコン、と控えめなノックが響く。

二人そろって扉を見る。
鳳城くんが眉をひそめながら開けると、そこにいたのは年配の男性だった。

きっちりとしたスーツ姿。
姿勢まで隙がなく、ただそこに立っているだけで空気が変わる。

「カイル様」

その呼び方に、私は背筋を伸ばした。

男性は私を見ると、一瞬だけ目を留める。
感情を見せない視線。
でも、それだけで緊張してしまう。

「お迎えのお時間です」

お迎え。
その言葉に、改めて現実を突きつけられる。

鳳城くんは露骨に嫌そうな顔をした。

「今日は早い」

「ご当主様がお待ちです」

その一言で、部屋の空気がまた少し変わる。

鳳城くんのお父さん。
きっと、すごく厳しい人なんだろう。

「……わかった」

短く答えた鳳城くんは、私のほうを振り返る。
さっきまでのやわらかさが少し引いて、王子みたいな顔に戻っていた。
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