目立たない総務の私ですが、ハイスペック副社長がジレ甘です
香奈江は鷹司の冷淡な態度を全く気に留める様子もなく、視線をゆっくりと真由へとスライドさせた。

その瞳には侮蔑も悪意もない。

ただ「存在しないもの」を見るかのような、静かな透明感だけがあった。

​「こちらが、噂の市川真由さんね。総務部から見事なロジックでプロジェクトを救われたという……『現場の実務家』さん」

​「……はじめまして、東堂香奈江様。市川と申します」

​真由が深々と頭を下げると、香奈江は優雅に首を傾げた。

​「頭をお下げにならないで。ここはオフィスではなく社交の場ですのよ。……ところで市川さん、先ほどあちらで駐日大使とお話しされていたフォーレの『レクイエム』の解釈、どうお考えになりました? 彼の国のエネルギー政策の歴史的文脈を理解する上で、あの時代の宗教観は不可欠ですけれど」

​真由の息が詰まる。

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