雪月公は菫の花に微笑む
 食堂に案内された時、ヴィオラはそこでもまた、皇都との違いを感じた。

 公爵家の食堂と聞いて想像するような、長すぎる食卓や、見栄のためだけに並べられた銀食器はない。

 もちろん調度は上質だが、部屋の中心にあるのは、適度な大きさの重厚な木のテーブルだった。

 暖炉には薪がくべられ、壁には北方の古い地図が飾られている。窓の外は既に暗く、雪だけが薄く光っていた。

 席に着いていたのは、ミカエル一人だった。彼は昼間とは違い、外套を脱ぎ、白を基調とした簡素な衣服に着替えている。

 装飾は少ない。だが、その方がかえって彼の美貌を際立たせていた。燭台の光を受けた金髪は柔らかく、真昼の空のような瞳は、相変わらず穏やかに見えて底が知れない。

「お待たせいたしました」

 ヴィオラが礼をすると、ミカエルは椅子に座ったまま軽く手を示した。

「どうぞ。長旅の後です、立ったまま気を張られては、こちらの食事まで疲れます」
「失礼いたします」

 ヴィオラは向かいの席へ腰を下ろした。

 食事はすぐに運ばれてきた。温かなスープ、黒パン、香草で焼いた魚、根菜の煮込み。皇都の料理に比べると色合いは地味だが、香りは豊かだった。寒い土地で身体を温めるための料理なのだろう。

 湯気が立つスープを一口飲むと、喉から胸へじんわりと熱が広がっていった。

「お口に合いませんか」
「いいえ。美味しいです」
「意外ですね。皇都の方は、北の食事を質素だと評することが多い」
「必要なものがある料理だと思います」
「……必要なもの」
「寒い土地では、身体を温め、動くための食事が必要です。香辛料も、根菜の使い方も理にかなっています。飾るためではなく、生きるための料理です」
「食卓まで軍略で眺めますか」
「癖です」

 軽口の裏にある立場と判断を受け止めてから、ヴィオラは改めて相手へ向き直った。

「嫌な癖ですね」
「自覚はあります」

 ミカエルは返された言葉を面白がるように目を細め、薄い笑みを口元に浮かべた。

「では、皇都の料理はどう見えます?」
「華やかです。皿数が多く、見栄も多い」
「正直ですね」
「嘘をつく理由がありません」
「皇都でそれを言えば嫌われますよ」
「既に好かれてはいません」
「でしょうね」

 会話は穏やかだった。言葉の端は相変わらず鋭いが、玄関先ほどの拒絶はない。

 ミカエルはヴィオラを追い返すことを諦めたわけではないだろう。だが、少なくとも今は、彼女を観察している。

 ヴィオラもまた、ミカエルを観察していた。食事の仕方。使用人への目配せ。料理を下げる時に交わされる短い言葉。
 
 ミカエルは使用人に対して横柄ではなかった。礼を言う時も、命じる時も、声の温度は変わらない。必要以上に親しくもしないが、道具のようにも扱わない。それだけで、この屋敷の空気の理由が少し分かった。
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