雪月公は菫の花に微笑む
「カルネット参謀官」
「はい」
「明日から、貴女は何を調べるおつもりですか」

 核心は食事の半ばで唐突に投げられた。
 ヴィオラはスプーンを置いて顔を上げる。

「皇帝陛下の密命について、閣下へすべてお話しする許可は受けておりません」
「でしょうね」
「ですが、ウォルターズ領内で起きている異変の有無を確認するよう命じられています」
「異変」
「はい」
「何もありませんよ」

 考える間さえない即答に、ヴィオラはその確信の根拠を探るように彼を見返した。

「確認する前からそう断じられるのですか」
「私の領です」
「だからこそ、見えないものもあるのでは」
「皇都から来たばかりの方に言われるとは、実に不愉快ですね」
「不愉快でも、必要なら申し上げます」

 ミカエルの瞳が細くなる。
 食堂の空気が少し冷えた気がしたが、ヴィオラは怯まなかった。

「ウォルターズ公爵閣下。私は閣下の領地を乱すために来たのではありません。ですが、北方第三砦の名で出された補給申請と、ウォルターズ家の備蓄報告が食い違っていることは事実です。申請された荷がノルドハーヴェン方面へ回され、その受領記録が皇都にも北にも残っていないことも」
「それで?」
「皇都だけで完結する事件とは思えません」
「つまり、北に内通者がいると?」

 ミカエルの声は穏やかだった。しかし、その奥に氷のようなものがある。

「その可能性を否定できません」
「随分と直接的ですね」
「遠回しに言っても意味がありません」
「皇都の方にしては、珍しい」
「私は軍府の人間です」
「それは失礼」

 少しも失礼と思っていない声だった。
 ミカエルはグラスを手に取り、水を一口飲む。静かな仕草だった。怒ってはいないが、不快には思っているだろう。

「カルネット参謀官」
「はい」
「ウォルターズ領は、建国以来この北を守ってきました。皇帝が愚かであろうと、賢明であろうと、我らは帝国の北門であり続けた。その家中に裏切り者がいるなどと、軽々しく口にされるのは不愉快です」
「軽くは扱っておりません」
「ならば重く扱ってください」
「そのために来ました」

 ミカエルはすぐに返事をせず、いま聞いた言葉の意味を確かめるように短い沈黙を置いた。

 しばらくして、彼はふっと笑った。

「……貴女は、本当に退きませんね」
「退く理由がありません」
「不快だと言われても?」
「それが事実を消すわけではありません」
「実に嫌な参謀官だ」
「よく言われます」
「でしょうね」

 ミカエルは食事の手を止め、ナイフを静かに皿の脇へ置いた。
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