雪月公は菫の花に微笑む
 翌朝、皇都ソルビスタには淡い朝靄が降りていた。
 北方用の厚い外套を纏い、ヴィオラは城門前に用意された馬車へ乗り込む。

 見送りに来たアスランは、最後まで眉間の皺を消さなかった。

「何かあれば、すぐに伝令を出せ。あと、雪月公に丸め込まれるな」
「努力する」
「そこは断言しろ」
「会ったこともない相手について断言はできない」
「そういうところだけ妙に慎重だな、お前は」

 ヴィオラは笑い、騎士として敬礼した。アスランも同じ礼を返す。

 やがて扉が閉まり、車輪が動き始めると、白い皇城と青い旗が朝靄の向こうへ少しずつ遠ざかっていった。

 膝の上には皇帝から託された密命がある。その始まりは、誰も気に留めなかった三枚の補給申請だった。

 数字のずれは小さい。けれど、小さいからこそ見落としてはならない。

 ヴィオラは封書へ手を添え、まだ見ぬ雪の領地を思った。

 帝国最北、ウォルターズ領。そこに何があるのかは分からない。ただ、分からないものを分からないままにしておくつもりはなかった。
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