『サレ妻の日常謎解き録 〜浮気夫の嘘、すべて解明いたしました〜』
 翔太は、手作りのお菓子が趣味らしい年下の女のもとへ、毎週水曜日に通っている。

 我が家の高級バターは、その女に自分好みの焼き菓子を作らせるための「お土産」として持ち出されたのだろう。

 スラックスに残った甘い香水は、その女と近い距離で過ごした痕跡。

 郊外のカフェのレシートは、二人が水曜日の夜に会っていた場所と時間を裏づけている。

 翔太は残業を口実に家を出て、私の買ったバターを手土産に女のもとへ向かい、焼き菓子を食べ、甘い香水をまとって帰ってくる。

 これはもう、単なる食事や仕事上の付き合いではない。

 私の中で、翔太の不倫は確信へと変わっていた。

 自分の財布は痛めず、妻が買った食材で不倫相手の機嫌を取る。

 どこまでもセコく、浅はかな男だ。

 人が買い揃えた上質な素材を横流しして、安っぽい男気を演出する。

 我が家のインテリアに例えるなら、洗練された北欧家具の真ん中に置かれた、安直で悪趣味なプラスチック製の置物のような存在だ。

 空間の調和を壊すだけの異物なら、早急に撤去しなければならない。

 断捨離すべき粗大ゴミの正体は、これで特定できた。

「ねえ、杏奈。来月の土曜だけど、会社の同僚何人か呼んでうちでホームパーティーやらないか? ほら、俺の昇進祝いってことでさ」

 リビングから、翔太の能天気な声が飛んでくる。

「ええ、もちろんいいわよ。ぜひお祝いさせて」

 私は蛇口を止め、泡の残ったスポンジを丁寧にすすいだ。

 昇進祝いのホームパーティー。

 これ以上ない、最高の舞台ではないか。

 翔太の同僚も、上司も。

 そして、おそらく彼が「気の利く後輩」として連れてくるであろう、その不倫相手も。

 まとめて我が家へ招待してあげましょう。

 あなたのついた浅はかな嘘も、見苦しい言い訳も。

 あの日消えたバターの行方も、甘い香水が移った理由も、郊外のカフェで交わされた時間も。

 すべてを一本の線につないだ、裏切りの証拠も。

「……すべて、きれいに解明して差し上げますわ」

 濡れた手をタオルで拭きながら、私は静かで冷ややかな確信に胸を躍らせていた。
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