楽園で紅茶とチョコレートを
12
ダレンが二階の廊下を歩いていた時。
一瞬「違和感」を感じた後で「邸の空気」が変わっていることに気付く。
「どうやら、また過去に来たようだな」
二階の廊下に居たため、玄関に置かれているアンモナイトが光ったことを直接見たわけではなかった。ただ、ジェームズが「あなたは察しがいい」とダレンを評したように、ダレンは微妙な変化から「自分はまた過去に飛ばされたのだろう」と察した。ダレンは、それなりの観察力がある。
「こっちの邸に来た時には分かる」
ダレンはあれから何回か過去へやって来ている。
「過去の邸」に来た時は感覚で分かるようになっていた。
ダレンは過去の世界に「2007年の邸」と若干異なる空気を感じている。おそらくは目に見えない魔力か何かだろうとダレンは予測しているが、本当にそうなのかは、魔術師ではないダレンには分からない。
あるいは邸の中の違いを見つけられれば確かめられる
それら邸の物、場所、人。である。
「ロザリーのもとへ行こう。きっと俺を待っているはずだ」
彼女は、叔父も、愛犬のジョンも亡くなって一人だとこの前に言っていた。そのことがあり、ダレンは未来に戻ってからも過去のロザリーが気になっていた。
〈一人で寂しい思いをしていないか。あるいは、自分を信じてくれる人が居ないことで悲しい思いをしていないか。俺と話すことで、そういう悲しい気持ちから一時でも開放されればいい。ロザリーに会いに行こう〉
廊下を歩き、ダレンはロザリーの部屋の前に立つ。彼女を驚かせないように、丁寧に扉をノックする。
「ロザリー。ダレンだけど」
その言葉ですぐに扉にパタパタと駆けてきて扉が開いた。
「ダレン。会いたかったわ」
ロザリーはダレンを見て嬉しそうな笑顔になる。
「ダレンに会いたいと思っていたの。部屋へ入って」
ダレンは、会話を重ねていくことでロザリーと親しくなっていく。
未来の話はしたり、しなかったり。どこまで話していいのか分からないから「重大な影響を与えてしまうのではないか」と、ダレンは未来のことを話すことに慎重になっていた。影響のない範囲でお互いのことを話した。
「私、今はダレンと会うことが楽しみなの」
ロザリーもダレンに心を開いている。
ダレンは、彼女が自分に向ける態度に「好意」が含まれていくことを感じた。ロザリーはダレンの優しさに気付いていた「ダレンは自分に優しく決して傷つけることをしない」と。心を許した相手の前で、ロザリーは純真な心を見せる。それは「簡単に傷ついてしまうんじゃないか」と思うくらい、純真な心だった。
ダレンは、邸の中に一人残されたロザリーが、亡くなった叔父の親戚たちから疑われて、この世界のどこにも頼れる人物が居ないことは知っている。彼女の悲しみを少しでも取り除いてあげたいと思っている。
二人は部屋の中でこの日も会話をしていく。
ロザリーがダレンに話しかける。
「それでね。ダレン」
ロザリーは「不安なこと」を話さなかった。
それはそういう言葉を言ってしまえば、止めどなく不安は言葉になっていくだろうと自分で気付いていたからだ。ダレンの前で悲しめば、優しいダレンは困るだろうと思ったから、精一杯「大丈夫」と振る舞っていた。
「庭の花壇に花が咲いたの」
「こっちでも邸の木香薔薇ももうじきみたいだ」
「この邸の中で一番綺麗なものは何、と聞かれたら私は「木香薔薇」と答えるわ。ダレンと一緒に見たい。ダレンにプレゼントするの。ここの花を未来へ持って帰って、ダレンの部屋に飾ってみて」
「へえ。それは楽しみだよ」
ロザリーは様々なことを話す。まるで会話を途切れさせたくないかのように。会話が途切れた時、不意に悲しい気持ちが襲ってきたのならダレンを困らせるのではないかと思ったからだ。ロザリーが次の会話を探す。
「それとね。それと」
不意にロザリーの笑顔が陰る。
「ダレン。わたしのこんな話を聞いても面白くないよね?」
ダレンはロザリーに優しく微笑みかける。
「そんなことないよ。ロザリー。俺は何より、ロザリーのことを知れることを嬉しく感じるんだ。こうして話すたび、君が優しい心の持ち主だって分かっていくこと。それが何よりもこの心を優しい気持ちにさせてくれる。君と話すことが嬉しいよ」
ダレンはロザリーの前で恥ずかしがることなく正直に答えた。
「ダレン。私も同じ気持ちよ」
ロザリーは胸に手を当てて言う。
「ダレンが居ない時にもダレンのことを考えていたの。会いたくて、会えたら何を話そうかな。そう思っていたら話したいことが多くなりすぎて、実際に会えたら、どこから話そうかなって、全部を話したくなったの。こんな気持ち初めてかも」
ロザリーは戸惑うように恥じらうような仕草。
「あなたのこと。もっと深く知りたいと思っている」
二人は見つめ合った。お互いの視線に僅かに熱が帯びる。
二人は思わずお互いのことを愛おしく思い「どうしていいのか分からない」と感じて、視線を外すことも出来ずに見つめ合っていた。
そうしている時、不意にダレンの世界が遠くなっていった。ダレンは「アンモナイトの魔力が自分を2007年に戻そうとしている」と分かって「ああ、未来へ戻るみたいだ」と言った。ダレンは過去から消えていく。
「ダレン。私はあなたに」
ロザリーはそこまで言いかけて止める。
彼女は一度、首を振ってから微笑んだ。
「ダレン。あなたとまた出会える日を私は待っている」
* * * * *
「ダレン。今日もお話しましょう」
2007年。ティータイムにお揃いのカップ&ソーサー。
ダレンは「ロザリーには紅茶が似合う」と感じていた。ダレンの趣味はどちらかというと紅茶より珈琲だった。町の若者の流行は、遠くの街にある流行り「シアトル系」のチェーンカフェ。女の子はトッピングの乗ったエスプレッソを頼む。ダレンはキリッと冷えたブラックのアイスコーヒーが好きだった。
だが、ダレンはこの邸に住み始めてからは紅茶を好むようになった。
「このゴシックな邸には伝統的なスタイルが似合うだろう」と思い暮らすようになる。ダレンなりに古いものに敬意を込めて。すると「紅茶も悪くないな」と、紅茶の良さに気付いた。
この紅茶も別に大して高級品でもないことは知っている。
ダレンの家にも置いてあるような市販品だ。だけど悪いものではなく「しっかり味わえば美味しいものだ」と。それと同時に「一人の時には珈琲が合うけれど、誰かと一緒に飲むのなら紅茶の方が落ち着くな」と素人ながらに思った。
今日もダレンとロザリーは過去の話をしていく。
「先日、また過去に行ってきたよ」
「そう。私はダレンに何と言っていたの?」
「木香薔薇がそろそろ見頃だと言っていた」
「あの時のことね。分かったわ」
ダレンは過去から戻った時は「その話」をロザリーとしている。
過去の話は、二人の共通の話題であり「共有した時間」昔話に花を咲かせるように、二人は様々なことを思い出して話していく。
「あの時、私の心の支えは「ダレンがまた邸に来てくれる」と思うことだったの。だからダレンに会えた嬉しさで、私は少し落ち着いてなかったでしょう?」
「そうだね。少しそわそわしていたように見えたよ」
「私、ダレンと話すことを心待ちにしていたの」
「でも、俺の話には特に面白みもないだろう?」
「そんなことないわ」
ロザリーはダレンを真っ直ぐ見つめた。
「あの時「ロザリーのことを知れることを嬉しく感じるんだ」と言ってくれたを覚えている? 私もこうして話すたび、ダレンが優しい心の持ち主だって分かっていくの。それが何よりも私のこの心を優しい気持ちさせてくれるの」
〈俺が過去でロザリーに言った言葉だ〉
それに気付いた時。ダレンはロザリーを愛おしく感じる。
自分のことを見て、言葉を拾ってくれる。そして、その言葉を大切にずっと覚えていてくれたこと。ダレンはロザリーの心の清らかさ、優しさに自然と惹かれた。そして「出来ることなら彼女を守ってあげたい」という想いはロザリーと一緒に居ると、胸の奥で、日に日に強くなっていく。
「私、ダレンと話すことが楽しいの」
ロザリーも奥手でまだ本心を遠回しにしか言えなかった。
「ダレン。私はあなたを、あなただけをこの邸で待っていた。だから、あなたと再び会えたことが何よりも嬉しいの。時を越えて」
お互いに相手の瞳の奥を見つめ合う。
「あの時もこうして二人見つめ合ったわ」
「そうだね。あの時、何を言いかけたの?」
ダレンがそう聞くとロザリーは戸惑う。
困ったように「えっとね」と言い、ロザリーはダレンから目を外し、急に落ち着かなくなって、膝に置いていた両手でドレスをぎゅっと握った。しばらくしてから「もう少し待って」と、ダレンに照れ隠しの笑顔を浮かべて見せた。
「いつかは伝えるから」
「ああ。待っているよ」
ダレンはロザリーを見て〈可憐だ〉と感じた。
「今でもあなたのことを知りたいと思う」
「ああ。俺も同じ気持ちだよ」
ダレンは、彼女に「それは恋なんだ」と言えずにいた。言うことで、今の気持ちが消えてしまうことを惜しく思って、もう少し待つことにした。
二人はその後、お互いに照れてしまって話題を変えた。
「そういえば。ジェームズはいつからこの邸に来たんだ?」
「「つい最近のこと」よ」
「そうなのか? 何だか信じられないよ」
ダレンが驚くと、ロザリーが当時のことを思い返しながらダレンに「ジェームズがやって来た日」のことを話していく。
「11ヶ月前くらいのことよ。新しく来ました「ジェームズ・ウィルソン」と申します、って現れたの。でも、私は覚えがないから、驚いたの。だけど、前に、ダレンから「未来の邸にジェームズという執事が居る」と聞いたことを思い出して。それで彼を迎え入れたの。今はジェームズのことを信頼しているわ。彼が、私のことを気にかけてくれることは一緒に居て分かるの」
ロザリーはそう言った後で小声で「普段は無愛想だけどね」とダレンに耳打ちをして、くすっと笑った。
ダレンが二階の廊下を歩いていた時。
一瞬「違和感」を感じた後で「邸の空気」が変わっていることに気付く。
「どうやら、また過去に来たようだな」
二階の廊下に居たため、玄関に置かれているアンモナイトが光ったことを直接見たわけではなかった。ただ、ジェームズが「あなたは察しがいい」とダレンを評したように、ダレンは微妙な変化から「自分はまた過去に飛ばされたのだろう」と察した。ダレンは、それなりの観察力がある。
「こっちの邸に来た時には分かる」
ダレンはあれから何回か過去へやって来ている。
「過去の邸」に来た時は感覚で分かるようになっていた。
ダレンは過去の世界に「2007年の邸」と若干異なる空気を感じている。おそらくは目に見えない魔力か何かだろうとダレンは予測しているが、本当にそうなのかは、魔術師ではないダレンには分からない。
あるいは邸の中の違いを見つけられれば確かめられる
それら邸の物、場所、人。である。
「ロザリーのもとへ行こう。きっと俺を待っているはずだ」
彼女は、叔父も、愛犬のジョンも亡くなって一人だとこの前に言っていた。そのことがあり、ダレンは未来に戻ってからも過去のロザリーが気になっていた。
〈一人で寂しい思いをしていないか。あるいは、自分を信じてくれる人が居ないことで悲しい思いをしていないか。俺と話すことで、そういう悲しい気持ちから一時でも開放されればいい。ロザリーに会いに行こう〉
廊下を歩き、ダレンはロザリーの部屋の前に立つ。彼女を驚かせないように、丁寧に扉をノックする。
「ロザリー。ダレンだけど」
その言葉ですぐに扉にパタパタと駆けてきて扉が開いた。
「ダレン。会いたかったわ」
ロザリーはダレンを見て嬉しそうな笑顔になる。
「ダレンに会いたいと思っていたの。部屋へ入って」
ダレンは、会話を重ねていくことでロザリーと親しくなっていく。
未来の話はしたり、しなかったり。どこまで話していいのか分からないから「重大な影響を与えてしまうのではないか」と、ダレンは未来のことを話すことに慎重になっていた。影響のない範囲でお互いのことを話した。
「私、今はダレンと会うことが楽しみなの」
ロザリーもダレンに心を開いている。
ダレンは、彼女が自分に向ける態度に「好意」が含まれていくことを感じた。ロザリーはダレンの優しさに気付いていた「ダレンは自分に優しく決して傷つけることをしない」と。心を許した相手の前で、ロザリーは純真な心を見せる。それは「簡単に傷ついてしまうんじゃないか」と思うくらい、純真な心だった。
ダレンは、邸の中に一人残されたロザリーが、亡くなった叔父の親戚たちから疑われて、この世界のどこにも頼れる人物が居ないことは知っている。彼女の悲しみを少しでも取り除いてあげたいと思っている。
二人は部屋の中でこの日も会話をしていく。
ロザリーがダレンに話しかける。
「それでね。ダレン」
ロザリーは「不安なこと」を話さなかった。
それはそういう言葉を言ってしまえば、止めどなく不安は言葉になっていくだろうと自分で気付いていたからだ。ダレンの前で悲しめば、優しいダレンは困るだろうと思ったから、精一杯「大丈夫」と振る舞っていた。
「庭の花壇に花が咲いたの」
「こっちでも邸の木香薔薇ももうじきみたいだ」
「この邸の中で一番綺麗なものは何、と聞かれたら私は「木香薔薇」と答えるわ。ダレンと一緒に見たい。ダレンにプレゼントするの。ここの花を未来へ持って帰って、ダレンの部屋に飾ってみて」
「へえ。それは楽しみだよ」
ロザリーは様々なことを話す。まるで会話を途切れさせたくないかのように。会話が途切れた時、不意に悲しい気持ちが襲ってきたのならダレンを困らせるのではないかと思ったからだ。ロザリーが次の会話を探す。
「それとね。それと」
不意にロザリーの笑顔が陰る。
「ダレン。わたしのこんな話を聞いても面白くないよね?」
ダレンはロザリーに優しく微笑みかける。
「そんなことないよ。ロザリー。俺は何より、ロザリーのことを知れることを嬉しく感じるんだ。こうして話すたび、君が優しい心の持ち主だって分かっていくこと。それが何よりもこの心を優しい気持ちにさせてくれる。君と話すことが嬉しいよ」
ダレンはロザリーの前で恥ずかしがることなく正直に答えた。
「ダレン。私も同じ気持ちよ」
ロザリーは胸に手を当てて言う。
「ダレンが居ない時にもダレンのことを考えていたの。会いたくて、会えたら何を話そうかな。そう思っていたら話したいことが多くなりすぎて、実際に会えたら、どこから話そうかなって、全部を話したくなったの。こんな気持ち初めてかも」
ロザリーは戸惑うように恥じらうような仕草。
「あなたのこと。もっと深く知りたいと思っている」
二人は見つめ合った。お互いの視線に僅かに熱が帯びる。
二人は思わずお互いのことを愛おしく思い「どうしていいのか分からない」と感じて、視線を外すことも出来ずに見つめ合っていた。
そうしている時、不意にダレンの世界が遠くなっていった。ダレンは「アンモナイトの魔力が自分を2007年に戻そうとしている」と分かって「ああ、未来へ戻るみたいだ」と言った。ダレンは過去から消えていく。
「ダレン。私はあなたに」
ロザリーはそこまで言いかけて止める。
彼女は一度、首を振ってから微笑んだ。
「ダレン。あなたとまた出会える日を私は待っている」
* * * * *
「ダレン。今日もお話しましょう」
2007年。ティータイムにお揃いのカップ&ソーサー。
ダレンは「ロザリーには紅茶が似合う」と感じていた。ダレンの趣味はどちらかというと紅茶より珈琲だった。町の若者の流行は、遠くの街にある流行り「シアトル系」のチェーンカフェ。女の子はトッピングの乗ったエスプレッソを頼む。ダレンはキリッと冷えたブラックのアイスコーヒーが好きだった。
だが、ダレンはこの邸に住み始めてからは紅茶を好むようになった。
「このゴシックな邸には伝統的なスタイルが似合うだろう」と思い暮らすようになる。ダレンなりに古いものに敬意を込めて。すると「紅茶も悪くないな」と、紅茶の良さに気付いた。
この紅茶も別に大して高級品でもないことは知っている。
ダレンの家にも置いてあるような市販品だ。だけど悪いものではなく「しっかり味わえば美味しいものだ」と。それと同時に「一人の時には珈琲が合うけれど、誰かと一緒に飲むのなら紅茶の方が落ち着くな」と素人ながらに思った。
今日もダレンとロザリーは過去の話をしていく。
「先日、また過去に行ってきたよ」
「そう。私はダレンに何と言っていたの?」
「木香薔薇がそろそろ見頃だと言っていた」
「あの時のことね。分かったわ」
ダレンは過去から戻った時は「その話」をロザリーとしている。
過去の話は、二人の共通の話題であり「共有した時間」昔話に花を咲かせるように、二人は様々なことを思い出して話していく。
「あの時、私の心の支えは「ダレンがまた邸に来てくれる」と思うことだったの。だからダレンに会えた嬉しさで、私は少し落ち着いてなかったでしょう?」
「そうだね。少しそわそわしていたように見えたよ」
「私、ダレンと話すことを心待ちにしていたの」
「でも、俺の話には特に面白みもないだろう?」
「そんなことないわ」
ロザリーはダレンを真っ直ぐ見つめた。
「あの時「ロザリーのことを知れることを嬉しく感じるんだ」と言ってくれたを覚えている? 私もこうして話すたび、ダレンが優しい心の持ち主だって分かっていくの。それが何よりも私のこの心を優しい気持ちさせてくれるの」
〈俺が過去でロザリーに言った言葉だ〉
それに気付いた時。ダレンはロザリーを愛おしく感じる。
自分のことを見て、言葉を拾ってくれる。そして、その言葉を大切にずっと覚えていてくれたこと。ダレンはロザリーの心の清らかさ、優しさに自然と惹かれた。そして「出来ることなら彼女を守ってあげたい」という想いはロザリーと一緒に居ると、胸の奥で、日に日に強くなっていく。
「私、ダレンと話すことが楽しいの」
ロザリーも奥手でまだ本心を遠回しにしか言えなかった。
「ダレン。私はあなたを、あなただけをこの邸で待っていた。だから、あなたと再び会えたことが何よりも嬉しいの。時を越えて」
お互いに相手の瞳の奥を見つめ合う。
「あの時もこうして二人見つめ合ったわ」
「そうだね。あの時、何を言いかけたの?」
ダレンがそう聞くとロザリーは戸惑う。
困ったように「えっとね」と言い、ロザリーはダレンから目を外し、急に落ち着かなくなって、膝に置いていた両手でドレスをぎゅっと握った。しばらくしてから「もう少し待って」と、ダレンに照れ隠しの笑顔を浮かべて見せた。
「いつかは伝えるから」
「ああ。待っているよ」
ダレンはロザリーを見て〈可憐だ〉と感じた。
「今でもあなたのことを知りたいと思う」
「ああ。俺も同じ気持ちだよ」
ダレンは、彼女に「それは恋なんだ」と言えずにいた。言うことで、今の気持ちが消えてしまうことを惜しく思って、もう少し待つことにした。
二人はその後、お互いに照れてしまって話題を変えた。
「そういえば。ジェームズはいつからこの邸に来たんだ?」
「「つい最近のこと」よ」
「そうなのか? 何だか信じられないよ」
ダレンが驚くと、ロザリーが当時のことを思い返しながらダレンに「ジェームズがやって来た日」のことを話していく。
「11ヶ月前くらいのことよ。新しく来ました「ジェームズ・ウィルソン」と申します、って現れたの。でも、私は覚えがないから、驚いたの。だけど、前に、ダレンから「未来の邸にジェームズという執事が居る」と聞いたことを思い出して。それで彼を迎え入れたの。今はジェームズのことを信頼しているわ。彼が、私のことを気にかけてくれることは一緒に居て分かるの」
ロザリーはそう言った後で小声で「普段は無愛想だけどね」とダレンに耳打ちをして、くすっと笑った。