楽園で紅茶とチョコレートを
 13

「どうやら、また過去の邸に迷い込んだようだ」

 一階の廊下。ダレンはそう呟いた。
 ダレンは一応「困ったな」という表情を浮かべたが、本当のところは好きな女の子が「自分と会うことを心待ちにしている」と考えると「過去のロザリーに会いたい」と思いながら過ごしていた。
「だけど、今日は様子がいつもと違う」
 その日、多くの喪服を着た「見知らぬ人」が邸の大広間に集まっていた。
 紳士や婦人だ。おそらくは「ロザリーの親族」だろうとダレンは考えた。親族以外に、この邸に訪れる人物は思い浮かばなかった。
「邸で何かあったのだろうか?」
 ダレンは、彼らに話しかけてみたが誰も反応しない。
 亡くなったロザリーの叔父がダレンのことを見えなかったように、彼らに干渉出来なかった。ダレンは「邸で何が起こったかはロザリーから聞こう」と考え、二階のロザリーの部屋へ向かう。
 一段、一段、階段を登る時に「不吉」を感じた。
〈嫌な予感が胸にある。ロザリーは無事なのだろうか?〉
 まるで「この階段」は、あの世に続く階段なのではないか、そう錯覚するような不吉な感覚だった。そこに「死の予感」を感じ取っていた。

 ダレンは二階のロザリーの部屋の前に立つ。
 部屋の扉は僅かに開いている。
「ロザリー。ダレンだけど」
 部屋の中へ声をかけても返事がない。
「今日は親族が居るからな。迂闊に喋れないのかもしれない」
 ダレンは「不吉な予感」を無視しようとした。
「ロザリー。入るよ?」と言ってから、ダレンがロザリーの部屋の中に入ると「部屋の中の様子」が一目でダレンに状況を教える。
「ロザリー」
 ロザリーはベッドの上、木香薔薇の中で静かに目を閉じていた。
 その胸に置かれた両手。その「死の儀礼的な眠り方」はダレンにも一目で「彼女が亡くなっている」ことが分かる。手に持っているものは銀の十字架のペンダントと、ダレンに見せたいと言っていた木香薔薇の花束。
 ダレンはその光景にショックを受けたが冷静だった。
「君がいつか亡くなるのはどこかで予想していた。君が1922年の人物だからだ。だけど亡くなった姿を見たくはなかった。君がどこかで亡くなっていると分かっていても、見たくなかったんだ。君と分かりあえたと思ったからだ」
 ダレンは悲しんだが、自分の胸に手を当ててロザリーに向かって静かに話す。
「安らかに、ロザリー。未来で会おう」
 ダレンはしばらく彼女の遺体の前に立っていた。
〈ウォーカーに殺されたのか?〉
 一瞬、そう考えたが違うだろうと考えた。
〈いや、仮にウォーカーに殺られたのなら、こんな穏やかな死に顔ではないと思う。ロザリーは眠るように亡くなっている〉

 * * * * *

 ダレンはロザリーの部屋を出て、一階へ戻った。
 大広間では「邸や財産の相続権」を主張し合う親族たちの姿があった。
 彼らを見るとダレンは怒りを覚えた。ロザリーが亡くなったというのに、邸や財産の話ばかりをしている彼らが嫌だった。だが、誰もが相続権の会話に「決め手」を欠き、親族の会話は「亡くなった叔父」の話になる。

『あの人。あまり親戚付き合いがなかったわ。黙っていたかと思えば、奇妙なものを買ったり、思わぬことをしたりもした。この国で「伝統的な仕来り」から外れたことをする人がどう思われるか知っているでしょう? 誰もがあまり関わらなくて。それが、この相続の話がまとまらない最大の原因なのよ』
『まあ、変わり者だったからね。こんな不気味な森に、こんな邸を建てるくらいにはおかしかったさ。土地は高くないから、土地の税金はかからないだろう。ただ、この邸を売ってもそれほど高くはならないだろうね』
『ところで、一体誰が「ロザリア」の死を報告したのかね?』
『私よ』とある婦人が言った。
『先日の朝、無言電話が届いたのよ。それで電話の交換手に確認したら、この邸からだったの。不気味に感じて、使用人に「邸に行って確認するように」と命じたら、ロザリアが亡くなっていることが分かったのよ。それで連絡をして今日に集まったのよ』
 その時、別の婦人が「何か」に気付く。
『し、静かに……』
 婦人が全員に黙るように指示をした。
『足音が聞こえる』
 それは「ウォーカーの足音」だった。
『足音の話。あの子の作り話じゃなかったの?』
 親族は未だに半信半疑だった。
『確かめようじゃないか。こっちは複数人さ。まあ、別に大したことにはならないだろうね。きっと「ああ、こんなことだったんだ」という、チープなトリックがそこにあるだけさ。それに、足音は一つ。こっちは大人数だ』
 親族は幽霊を怖がらない素振りを見せる。
『だが、念の為、何かを持っていた方がよさそうだ』
 彼らは、それぞれに「武器になりそうな物」を手に持って、全員で「何、怖がることはないさ」と言い、足音のする方向へ確かめに行く。

 ダレンは「悲劇が起きるのではないか」と予測した。
「彼らは自らの意思で向かっている」
 ダレンが自分を落ち着かせようとした独り言だった。
「俺の言葉は彼らに届かない。それに「ウォーカーの話」は既にロザリーがしている。その話を一切信じていないなら、俺に止めることは出来ない」
 ダレンは自分を落ち着かせるように呟く。
「彼らはおそらく生存しない。生き残っていたのなら、邸がそのまま放置されている未来にならない。彼らはこれから亡くなる運命なんだ」
 ダレンはこれから惨劇が起きることを予測しながらも、彼らの後を付けていく。彼らがウォーカーと出会うのなら。その時に「ウォーカーの正体」が分かる。ダレンはウォーカーの情報が欲しかった。

 親族の一人が手に持った棒を握りながら言う。
『すぐ近く。そこに居るはず』
 親族が足音と「ぶつかった」時、彼らは「ウォーカー」と出会す。

 それは「真っ黒に腐敗した人間の形をした異形の存在」として、彼らの前に現れる。生者ではなく、禍々しい存在であり、その目は空洞になっている。金切り声のようなおぞましい声で叫び「爪が剥がれて血まみれの手」で親族に襲いかかる。
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